USDCを投資家視点で読み解く|2位という立ち位置が示す構造

ステーブルコイン市場でUSDCを語るとき、最初に押さえるべきは「2位」という事実が単なる順位ではなく、Circleのビジネスモデルそのものを規定しているという点だ。2026年6月時点で、USDTの時価総額が約1,868億ドルなのに対し、USDCは約758億ドル。倍以上の差がついている。この差は流動性の差であり、収益の差であり、そして投資家がUSDCを選ぶ理由とリスクの両方を説明する出発点になる。

本稿では、USDCを「ドルペッグの安定資産」として表面的に扱うのではなく、発行体Circleの収益構造、準備資産の中身、規制との関係、そして競合との技術的・経済的な差から、暗号資産投資家がこの資産をどう評価すべきかを整理する。

目次

規制適合性を武器にしたドルという設計思想

USDCを一言で表すなら「規制適合性を前提に設計されたドル」だ。USDTが規制を問わない流動性で市場を制したのに対し、Circleは透明性と規制対応によって機関投資家を取りに行く戦略を一貫して取ってきた。

この差が最も明確に出るのが準備資産の開示だ。USDCの準備資産はBlackRockが運用するSEC登録の2a-7マネーマーケットファンド「Circle Reserve Fund」(ティッカーUSDXX)に集約されており、保有する米国債のCUSIPレベルの明細が日次で開示されている。大半のステーブルコイン発行体がカテゴリ別の集計値しか出さないなかで、個別銘柄まで毎日追えるのはUSDCだけだ。Visa、Stripe、BlackRock、そしてMetaが決済統合の相手にCircleを選んだ理由は、この透明性と発行体の規制ステータスにある。

つまりUSDCの需要は、利回りでもブランドでもなく「破綻時に資産がどうなるか」を法的に追える防御的な理由から来ている。MetaがクリエイターへのUSDC支払いにCircleを選んだのは、Libraを政治的に潰された経験から、規制対応済みで米国に拠点を持つ発行体を必要としたためだ。

発行残高が3度書き換わった軌跡が語るもの

USDCの発行残高は一本調子で伸びてきたわけではない。2022年7月に約560億ドルまで膨らんだ後、2023年のSilicon Valley Bank破綻を受けて220億ドルまで縮小し、2024年末にかけて回復、2026年に過去最高を更新した。この乱高下は、USDCが銀行システムと暗号資産市場の接点に立っていることの裏返しだ。

現在、Circleは2026年下期に流通量を1,500億ドルへ引き上げる目標を掲げている。ただし足元の市場シェアは別の動きを見せている。直近30日でUSDTが約2%増えた一方、USDCは1.5%減少した。さらに重い事実として、USDTとUSDCの合算シェアは1年で89%から84%未満へ低下している。USDCは上からはUSDTに倍以上の差をつけられ、下からは新規参入のステーブルコインに侵食されている。シェアという堀は規制によって守られているが、成長率そのものは鈍化局面に入っている。

1:1の裏にある二層構造のペッグ維持メカニズム

USDCは法定通貨担保型であり、アルゴリズム要素を一切持たない。機関クライアントがCircle MintにUSDを送金すると準備金に組み入れられ、同額のUSDCがミントされる。償還はこの逆で、承認済みの機関クライアントは即日から翌日でUSDに1:1で償還できる。

ここで投資家が理解すべきは、小口の保有者は直接Circleに償還できないという点だ。平時のペッグは取引所やDEXでの裁定取引によって維持される。USDCが1ドルを割れば、機関クライアントが市場で安く買って額面で償還する裁定が働き、価格が戻る。この裁定が成立するのは「償還がいつでも確実にできる」という信頼があるからで、その信頼を支えているのが短期国債中心で即時換金可能な準備資産の構成だ。

言い換えれば、USDCのペッグは「準備資産の即時流動性」が「裁定業者の行動」を動かし、それが「市場価格」を維持するという連鎖で成り立っている。この連鎖のどこかが切れたとき何が起きたかは、後述するSVB事件が示している。

担保の8割は短期国債、しかしリスクは現金部分に集中する

USDCの準備資産は、概ね8割が短期米国債とオーバーナイトレポ、2割が現金という構成だ。2025年6月30日時点では約87%がCircle Reserve Fundに置かれ、残りがGSIB(グローバルなシステム上重要な銀行)の現金預金だった。国債部分の加重平均満期は60日未満に抑えられ、月次でDeloitte & Toucheが監査レポートに署名している。

投資家が注視すべきは国債ではなく現金部分だ。Brookingsの分析によれば、Circleはポートフォリオの約14%を規制金融機関の預金で保有しており、これがFDICの25万ドル保護上限を超過している可能性が高いと指摘されている。後述するSVB事件が起きたのも、まさにこの現金預金部分だった。米国債は世界で最も流動性が高く米政府の直接債務だが、銀行に預けられた現金は預金保険の上限を超えた瞬間にカウンターパーティリスクへ変わる。USDCの担保を評価するとき、「8割が国債だから安全」という見方は現金部分の質を見落とす。

SVB事件が露呈させた週末の裁定不全という弱点

2023年3月のSilicon Valley Bank破綻は、USDCにとって唯一にして最大のペッグ崩壊事例だ。当時、準備資産の約8%にあたる33億ドルがSVBに預けられていた。Circleがこの事実を公表した直後、USDCは3月11日に0.87ドル前後まで急落した。

価格が戻ったのは、FDICがSVB預金の25万ドル保護上限を例外的に撤廃し、Circleの33億ドルが保全されると示されたためだ。3月13日には0.99ドル台まで回復している。ここから読み取れる教訓は三つある。第一に、リスクは国債部分ではなく現金預金部分に集中していた。第二に、事件が週末に起きたため、DEXでの裁定が効きにくく、ペッグ修復が銀行の営業再開を待たねばならなかった。ステーブルコインは24時間動くが、その裏付けとなる銀行システムは営業時間に縛られている。この時間的なズレが週末に増幅された。第三に、最終的に救済したのはCircle自身ではなく政府の介入だった。

この事件後、CircleはBNY Mellonへの準備資産集約と銀行パートナーの多様化を進め、現金保管先の分散によって同じ構造の再発を防ぐ体制を整えた。

収益の99%が金利という構造が抱える時限装置

Circleの収益モデルを理解せずにUSDCを評価することはできない。2024年の収益17億ドルのうち99%が準備資産の金利収入だった。実効利回りは約3.6%。USDCの保有者には利息を一切払わないため、準備資産から得た金利がそのまま発行体の収益になる。

この構造には明確な時限装置が組み込まれている。CircleはIPO目論見書のなかで、金利が1%低下すると準備資産収入が4.41億ドル減りうるとリスク開示している。EthenaやMakerが保有者に利回りを還元するのに対し、Circleは利回りを全額自社で留保するため、ビジネスは金利の方向に対して極めて敏感だ。実際、2026年第1四半期にはReserve Return Rateが3.5%へ30ベーシスポイント低下し、USDC流通量が過去最高の770億ドルに達したにもかかわらず、利下げ局面が収益を圧迫し始めている。流通量の拡大と利回りの低下が綱引きをしている状態だ。

Coinbaseが粗利の半分を持っていく分配構造

USDCの収益を語るうえで避けて通れないのが、Coinbaseとの収益分配だ。現行の契約では、Coinbaseのプラットフォーム上で保有されるUSDCの金利収入は100%がCoinbaseに渡り、プラットフォーム外で保有される分は50対50で分割される。

この結果、2024年の流通コストは10.1億ドルに達し、Coinbaseは USDC関連で9.08億ドルを稼いだ。これはCoinbaseの総収益の約14%に相当する。Circle側から見れば、準備資産から得た粗利の半分以上が分配で消えていく構造だ。Coinbase上で保有されるUSDCの比率は2022年の5%から2024年には約20%へ急増しており、Coinbaseが保有量を増やすほどCircleの取り分は減る。

この契約は3年ごとに更新され、次回更新は2026年に予定されている。Bernsteinのアナリストは、両社が契約を戦術的なものではなく基盤的なパートナーシップと捉えているとし、CoinbaseがUSDCの流動性を立ち上げた功績は今後もCircleの強みであり続けると見ている。とはいえ、2026年の再交渉がどう着地するかは、Circleの収益構造を見る投資家にとって年内最大の注目イベントだ。

ブラックリスト機能が示す検閲耐性の欠如

USDCのスマートコントラクトには、特定アドレスを凍結するブラックリスト機能が組み込まれている。Circleが秘密鍵を保有し、コンプライアンスチームがこの機能を執行できる。一度凍結されると、そのアドレスのUSDCは送受信が一切できなくなる。

発動実績を見ると、Circleはローンチ以来およそ372アドレス、累計約1.1億ドルを凍結してきた。これはTetherの約2,500アドレス・16億ドルと比べれば小規模だ。代表的な事例として、2022年8月のTornado Cash制裁では7.5万USDC超を凍結し、OFACの指定に即座に従った。2026年3月には、封印された米国の民事訴訟を理由に取引所・カジノ・FXプラットフォームに紐づく16のビジネスホットウォレットを凍結し、オンチェーン調査者のZachXBTらから検閲的だと批判を浴びている。

ここに、規制適合性を強みとするUSDCの裏面がある。発行体が一方的に資産を凍結できるという事実は、DAIのような発行体不在で凍結機能を持たないステーブルコインとの本質的な差だ。投資家にとってこれは価格変動リスクとは別種の、保有そのものに関わるリスクであり、特に大口のオンチェーン運用やDeFiプロトコルがUSDCを担保として抱える場合に現実的な論点になる。

利息禁止規制と4%リワードが共存する綱渡り

USDCの保有者がどう利回りを得るかという問題は、2025年以降の規制で複雑になった。2025年7月に成立したGENIUS Actは、ステーブルコイン発行体が保有者に利息や利回りを提供することを明確に禁止している。

ところが、Coinbaseは「リワードは発行体ではなくプラットフォーム由来であり、GENIUS Actの規制対象外」という法的線引きのもとで、USDCに約4%のリワードを払い続けている。この線引きが揺らいだのが2026年2月のOCC規則案だ。376ページに及ぶこの提案は、発行体が25%以上の持分を持つ第三者を経由した利回りも禁じる方向を示し、Circle-Coinbaseのモデルを直接脅かす内容を含んでいた。専門家の見方は、この規則案がCoinbaseのリワードプログラムを終わらせるかどうかで割れている。

背景には銀行業界との対立がある。Bank of AmericaのCEOは、ステーブルコインへの利息支払いが認められれば最大6兆ドルの銀行預金が流出しうると2026年1月に警告した。チェース普通預金の年利が0.01%、ステーブルコインのリワードが3.5〜5%という利回り差を前に、銀行業界は利息禁止を全てのデジタル資産サービス提供者へ拡大するよう求めて動いている。なお、これらのリワードはFDIC保険の対象ではない。Aave上ではUSDCが約3.69%の利回りを生むなど、DeFi経由の利回り獲得手段も並存しており、規制の網と実態の間にずれが残っている。

ネイティブ発行とCCTPがUSDTと分ける技術構造

USDCのクロスチェーン設計は、USDTとの差を技術面から説明する重要な論点だ。USDCは20以上のチェーンでネイティブ発行されており、その移動を支えるのがCircleのCross-Chain Transfer Protocol(CCTP)だ。

CCTPはburn-and-mint方式を採る。送信元チェーンでUSDCをバーンし、CircleのオフチェーンのIris認証サービスがそのバーンを暗号的に検証し、送信先チェーンで同額のネイティブUSDCをミントする。途中にブリッジ業者が資産をロックして発行するラップ版USDCが介在しない。これにより、ブリッジのカストディリスクと流動性の断片化を避けられる。CCTP V2は2025年に30秒のファストファイナリティ、送金後に自動処理を走らせるプログラマブルなフック、Solana対応を追加し、13を超えるチェーンへ展開している。

これに対しUSDTは、ネイティブ発行されるチェーンが限られ、マルチチェーン展開の多くをパートナーのブリッジに依存する。つまりUSDCのクロスチェーン構造は本質的にmint-and-burnであり、USDTのlock-and-wrapとは設計思想が異なる。機関のクロスチェーン決済やトレジャリー運用にとって、ラップ版を経由しないことはカウンターパーティリスクの削減を意味し、これがUSDCを選ぶ実務的な理由のひとつになっている。

主要ステーブルコインとの比較で見える各陣営の立ち位置

ステーブルコイン市場を担保・発行体・規制・流動性の軸で並べると、各銘柄の戦略がはっきり分かれる。

USDTは時価総額約1,868億ドルで流動性において圧倒的な首位だが、準備資産の約20%が現金等価物以外(担保付ローン、ビットコイン、貴金属など)で構成され、開示の透明性ではUSDCに劣る。USDCは約758億ドルで、80%国債・20%現金の構成とCUSIPレベルの日次開示、GENIUS ActとMiCAへの適合を武器とする規制適合の2位だ。DAIはMakerDAO(現Sky)が発行する暗号資産担保型で、その担保の一部にUSDCを含むという依存関係があり、発行体不在ゆえ凍結機能を持たない点でUSDCと対極にある。

新興勢では、EthenaのUSDeが暗号資産とデルタヘッジを組み合わせた合成型で保有者に利回りを払うが、直近30日で時価総額を25%失うなどボラティリティが高い。PayPalのPYUSDは法定通貨担保型ながら時価総額約40億ドル前後で伸び悩み、RippleのRLUSDは約16億ドルで機関向けの新規参入として12位前後につけている。保有者への利回り還元という点でUSDeやSkyがCircleと異なるのは前述の通りで、Circleが利回りを全額留保するモデルは金利低下局面で構造的な弱さを露呈する。

機関と取引所がUSDCを採用する経済的インセンティブ

資金流入の理由を整理すると、利用者層によって動機が異なる。機関投資家がUSDCを使うのは、GENIUS Actが発行体破綻時に保有者へ準備資産に対する優先権を与えるなど、破綻時の法的保護と月次監査、上場企業ゆえの財務開示という防御的な理由からだ。VisaやStripe、BlackRock、Metaといった規制対象の事業者がコンプライアンス決済のデフォルトとしてCircleに収斂していることが、機関需要の土台を作っている。

取引所がUSDCを採用する動機はより経済的だ。Coinbaseは前述の収益分配によって、USDC保有から得る金利収入が取引手数料収入を上回ることさえある。Coinbase Oneのサブスクリプション経由でリワードを「会員特典」として提供する仕組みも、この経済性を後押ししてきた。一方でBinanceでもUSDCの利用は拡大しており、スポット取引高に占める比率が高まっている。利用者が増えるほどCircleの準備資産が積み上がり、それが金利収入を生み、その一部が分配を通じて取引所のインセンティブになるという循環が、流通拡大のエンジンになっている。

Circleが金利依存から抜け出そうとする事業多角化

USDCそのものの将来とは別に、発行体Circleが収益構造をどう転換しようとしているかは、CRCL株を含めて評価する投資家には欠かせない論点だ。

2026年第1四半期時点で、Circleの収益の94%が依然として準備資産の金利収入に依存している。利下げ局面でこの依存が重荷になることを、Circle自身が最もよく理解している。同社は2026年5月、BlackRock、Apollo、Andreessen Horowitz、ARK Investが主導する2.22億ドルの調達によって、独自のLayer-1ブロックチェーン「Arc」を約30億ドルの評価で立ち上げた。Arcは、ガス代やトランザクション手数料という金利以外の収益源を生み出すことを狙った設計で、CEOのJeremy Allaireはこれを「経済のオペレーティングシステム」と位置づけている。

加えて、Circle Payments Networkによる機関向け決済、24時間稼働の機関向けFXを狙うStableFX、トークン化マネーマーケットファンドのUSYC(2026年1月時点で約16億ドル)、AIエージェント間のマイクロペイメントを狙うAgent Stackと、決済・ブロックチェーン・AIにまたがる多角化を進めている。これらはまだ収益の中核ではないが、金利という時限装置への依存を構造的に解消できるかどうかが、Circleの企業価値を左右する変数になっている。

CBDC不在の米国で代替を担うという構図

ステーブルコイン市場とCBDCの関係を米国に限って見ると、構図は競合というより代替に近い。米国はCBDCの発行に消極的で、GENIUS Actによってドル建てステーブルコインを事実上のデジタルドルの担い手に据える方向へ進んだ。2025年第3四半期にドル建てステーブルコインは2,600億ドルを超え、その過半をUSDTが占めるなかで、USDCは2020年末以降で最も速い成長を見せてきた。

一方で、GENIUS Actの成立は両刃の剣でもある。規制の明確化によって参入障壁が下がり、発行体の増加と競争激化が見込まれている。実際、World Liberty FinancialのUSD1、Global Dollar、Falcon USDといった新興勢が中位市場で競い合い始めている。規制適合がUSDCの差別化要因だった構図が、規制が整備されたことで他社にも開かれていく。USDCが「システム上重要なデジタル資産」へ分類される方向にあるのは、規模拡大の証左であると同時に、監督強化を招く側面も併せ持つ。

投資家が継続的に追うべき定量指標

USDCを資産として、あるいはCircleを投資対象として見るとき、追うべき指標は明確だ。まず発行残高と流通量で、これは収益と直結し、Circleが掲げる1,500億ドル目標との距離を測る物差しになる。次に市場シェアで、USDTとの差が縮まるのか、合算シェア84%割れがどこまで進むのかが、USDCの構造的な位置を示す。

準備資産については、現金比率と国債比率の推移がカウンターパーティリスクの代理指標になる。チェーン別流通量、特にEthereum・Base・Solanaへの集中度は、CCTPの普及とともに変化する。Coinbase上の保有比率は分配コストの先行指標であり、2024年に約20%へ達した数字がさらに上振れすれば、Circleの取り分はその分削られる。そしてCRCL株価とReserve Return Rate(実効利回り)は、発行体の体力と金利環境を同時に映す。最後に、2026年のCoinbase契約再交渉は、USDCの収益構造が変わる転換点として、年内を通じて見ておくべき一点だ。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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