Solana(ソラナ)分析|速度のコモディティ化が進む高速L1で、SOLは何を根拠に買われているのか

Solanaを語るとき、これまで投資家が真っ先に持ち出してきたのは「65,000 TPS」という数字だった。だが2026年に入り、この数字を投資判断の根拠にする意味はほとんど失われている。SuiもAptosもHyperliquidも、理論値や finality の数字でSolanaを上回る場面が増え、純粋な処理速度はもはや差別化要因として機能しなくなった。Solana Foundation自身が2026年のメッセージングを「速い小売チェーン」から「Internet Capital Market(オンチェーン版Nasdaq)」へと書き換えたのは、その自覚の表れだ。

ではSOLは今、何を根拠に買われているのか。本稿は価格予想ではなく、ネットワークの実需構造、報酬の出どころ、そして分散性とのトレードオフという三点から、暗号資産投資家がSolanaをどう評価すべきかを整理する。

目次

理論TPSと実効TPSの乖離が示すもの

Solanaの理論最大スループットは65,000 TPSとされるが、これはProof of Historyアーキテクチャから導かれる上限値であって、日常的に出る数字ではない。Chainspectのライブデータでは、平常時の実効TPSは1,000〜4,000の範囲に収まり、直近の実測は概ね1,000台前半で推移している。ピーク時でも6,000台に届く程度だ。

この乖離は、Solanaの数字を読むうえで最初に押さえるべき点を含んでいる。生TPSにはバリデータの投票トランザクションが大量に混入しており、これが数字を膨らませる。ネットワークの実需を測りたいなら、投票を除いた非投票トランザクションを見るべきだ。この指標で見ると、2026年第1四半期の1日あたり非投票トランザクションは112.6Mに達し、前四半期比で50%増の過去最高を記録している。出来高ベースでもDEX volumeが全チェーン首位を取る月があり、ブロック生成は約400ミリ秒、Ethereumの12秒に対して30倍の速さを保つ。

つまり「速度」という看板の裏で、実際に動いているのは投機を含む膨大な取引フローだ。Visaの平均処理量が約1,700 TPSと言われる中、Solanaの実効スループットは既にこれに匹敵する水準にある。投資家が見るべきは65,000という上限ではなく、非投票TXとDEX出来高が示す実需の厚みのほうだ。

なぜSolanaはこの速度を出せるのか――合意の前さばきという発想

Solanaの速度は、単一の技術ではなく「待ち時間を構造的に消す」という設計思想から来ている。中核にあるのがProof of History(PoH)で、これは取引順序を事前に暗号的なタイムスタンプとして確定させる仕組みだ。多くのチェーンがバリデータ間の「順序合意」に時間を費やすのに対し、Solanaはその合意を前さばきしてしまう。ここが速度の根本にある。

実行層を担うのがSealevelで、各トランザクションが読み書きするアカウント(state)を事前に申告することで、競合しない取引をマルチコアで同時実行する。Ethereumの単一スレッド実行と最も明確に分かれるのがこの並列実行だ。さらにGulf Streamがメンプールを廃し、取引を次のリーダーへ直接転送することで待機列を消す。ブロック伝播はTurbineがBitTorrent的に小片へ分割して配信し、Pipeliningが署名検証・実行・台帳書き込みを流れ作業化する。

注意したいのは、SolanaがDAGやBlockDAGを採用していない点だ。SuiやAptosの一部設計、あるいはNarwhal-Bullshark系がデータ可用性と合意を分離するのに対し、SolanaはPoHによる単一時系列に賭けている。Avalancheのサブサンプリング投票とも設計思想が異なる。この分岐は、後述する分散性のトレードオフと直結している。高スペックなハードウェアを前提に単一時系列で押し切る構造が、速度と引き換えに何を手放したのかを理解しておく必要がある。

報酬は三層構造――インフレ、手数料、そしてMEV

SOLのステーキング利回りを「インフレ発行による報酬」だけで理解していると、ネットワークの経済構造を見誤る。実際の報酬は三層から成る。

第一層はインフレ発行だ。Solanaは初期8%から毎年15%ずつ逓減し、長期的に1.5%の床に収束する設計で、現行のインフレ率は約3.795%。発行分の約95%がバリデータ報酬に回り、手数料の50%はバーンされる。ここまでは標準的なPoSの枠組みだ。

第二層が取引手数料で、混雑時の優先手数料(priority fee)が上乗せされる。そして投資家が見落としがちな第三層がMEV(Maximal Extractable Value)、すなわち取引順序の並べ替えから生じる超過利益だ。SolanaではJitoがこのMEVをオークション化し、searcherがバンドルの組み込みを入札する仕組みを構築した。これにより、かつてプロのbotに流れていた利益の一部がステーカーに還元される。jitoSOLを保有すれば標準APYの上にMEVチップが乗る構造だ。

この三層構造を理解すると、SOLの利回りがなぜ単純なインフレ率と一致しないのかが見えてくる。同時に、ここには無視できない集中リスクが潜んでいる。2026年初頭時点で、Jitoクライアントを稼働するバリデータが全ステークの過半を握っており、一部の集計では95%という数字も出ている。MEV収益がネットワーク報酬の構造的な一部になった一方で、単一バリデータクライアントへの依存というかたちで、分散性とは別軸の集中が進んでいる。

なお、SIMD-0411という提案が逓減率を15%から30%へ倍化し、1.5%への到達を前倒しする案として議論されている。可決されれば新規発行が抑制され供給の希少性は高まるが、ステーキング利回りは段階的に2%台へ低下し、バリデータの誘因とセキュリティに影響が及ぶ。利回りと供給のどちらを取るかという、ステーカーにとって直接的な利害が絡む論点だ。

リキッドステーキングが作る第二のSOL市場

ネイティブステーキングにはアンボンディングに約2日のクールダウンがあり、その間SOLはロックされる。この制約を回避しながら利回りを得る手段として、リキッドステーキング(LST)が独立した市場を形成している。jitoSOL、mSOL、bSOLといったトークンは、ステークしたSOLと未収報酬への請求権を表しつつ、それ自体がDeFi上で担保や流動性として流通する。

LST全体のステーク量は全体の約10〜15%、$3.3Bを超える規模に達した。注目すべきは内部のシェア変動で、長くトップを走ったjitoSOLのシェアが約35%から20%超へ低下し、mSOLが生の利回りで逆転する局面が出ている。ネイティブステーキングが5〜7%、LSTが概ね5.89〜6.16%という利回り差の中で、流動性の深さ、DeFi担保としての汎用性、MEV還元の有無が選択基準になっている。jitoSOLは流動性と機関対応で先行し、mSOLはバリデータ分散と利回りで対抗する、という構図だ。

機関投資家の関与も進んでいる。NasdaqがVanEck JitoSOL ETFの上場を2026年2月に申請したのは、LSTそのものを規制商品として扱う初の試みだ。Galaxy Digitalが機関向けSOLステーキングを開始し、Hex TrustがjitoSOLを保管ステーキングに統合するなど、従来の保管業者がLSTを標準的な利回り商品として扱い始めている。LST市場は選択肢が増えると同時に、カウンターパーティとデューデリジェンスの対象も増えるという、複雑化のフェーズに入っている。

誰がガバナンスの実権を握っているのか

Solanaのガバナンスは「オフチェーン色が強い」と片付けられがちだが、投資家が見るべきは意思決定の実権がどこにあるかだ。プロトコル変更はSIMD(Solana Improvement Document)として提案され、ステーク加重で投票される。可決にはクォーラム33%の参加と、棄権を除く2/3超の賛成が必要だ。

ここで構造を左右するのがSFDP(Solana Foundation Delegation Program)で、財団が全ステークの約10%にあたる約41M SOLを897のバリデータに委任している。この委任ステークが投票結果を動かした実例がある。インフレ調整を巡るSIMD-228の否決では、SFDPのステークが反対側に回ったことが結果に影響したと分析されており、もしこのステークが賛成に回っていれば結果が変わっていた可能性が指摘されている。財団の影響力をどう評価するかは、Solanaの分散性を論じるうえで避けて通れない争点だ。

この構造への対応として、Solana Constitutionの整備が2026年に進んでいる。SGP(Solana Governance Proposal)という新たな層を設け、争点化したSIMDをより広い投票にエスカレートしてオーバーライドできる仕組みが議論されている。ガバナンスが技術文書中心の運用から、より明示的な憲法的枠組みへ移行しようとしている段階にある。

競合との差は「数字」ではなく「実需と流動性」に移った

高速L1市場での競争は、もはや理論TPSやfinalityの数字では決まらない。SuiはMove言語とオブジェクトモデルでほぼ即時のfinalityを実現し、Aptosも0秒級のfinalityと中央値$0.00001という低手数料を出す。Hyperliquidはデリバティブ特化のオンチェーンCLOBとして約0.07秒のブロックで動く。数字だけ並べればSolanaは見劣りする項目すらある。

それでもSolanaが優位を保つのは、実運用規模と流動性、そして開発者層の厚みだ。開発者数は約10,800人と最大級で(ただし2026年初頭は全チェーン横断で開発者の縮小が見られ、AI領域への人材流出が一因とされる)、DEX出来高では本番規模で首位級を維持する。SuiやAptosがDiem由来のMove言語でリエントランシー攻撃に構造的な耐性を持つ一方、Cetusの$223M exploitのようにMoveでもセキュリティ事故は起きており、言語の優位がそのまま安全性を保証するわけではない。

投資家心理の観点では、Solanaは「実需を取り込めている高速チェーン」という認識で買われてきた。競合が数字で追い上げる中、Solanaの評価軸は速度そのものから「速度をどれだけ実際の取引・決済・流動性に変換できているか」へとシフトしている。Alpenglowアップグレードがfinalityを12.8秒から150ミリ秒未満へ圧縮する設計で2026年に予定されており、これが実現すれば数字面の劣後も縮まるが、現時点では実需の厚みこそがSolanaの防御線だ。

エコシステムの実態――DeFiが牽引し、RWAが物語を変えた

Solana上で実際に資金が動いている場所を見ると、中核はDeFiだ。DeFi TVLは出所により$5.5〜13.5Bと幅があるが、SOL建てTVLは2026年第1四半期に80M SOLで過去最高を記録した。価格が下落する局面でも資本がネットワークに滞留している点は、ドル建ての数字だけでは見えない実態を示す。

出来高を牽引しているのはProp AMMの台頭だ。HumidiFiやBisonFiといったProp AMMが、第1四半期にスポット出来高の53%を占め、前四半期の45%から比率を上げた。BisonFiは前四半期比362%という急伸を見せている。レンディングではKamino Lendが単体最大の約$1.48Bを抱え、JupiterがLend・JupSOL・Perpを合算すると最大級になる。

物語の質を変えたのはRWA(Real World Asset)だ。Solana上のRWAは$2.0〜2.5B規模に達し、第1四半期は前四半期比43%増、BlackRockのBUIDLが$525M超へ倍増した。Mastercard、Western Union、Franklin Templeton、Ondoが決済・トークン化インフラを本番稼働させ、SBI系のB2C2が機関向けステーブルコイン決済の主ネットワークにSolanaを指定した。ステーブルコイン時価総額は約$14.2〜14.9Bで、USDC優勢からUSDT・USD1・PYUSDへ構成が多様化している。

ただし、ここに「Two Solanas」と呼ばれる構造的な論点がある。機関とRWAという実需の物語が評価軸を押し上げる一方で、収益の実体は依然としてミームコイン関連が大きな比重を占める。TVLの相当部分がKMNO・JUP・MNDEといったインセンティブトークンの発行に支えられており、インセンティブ建ての利回りはSOLやステーブル建ての利回りとは性質が異なる。実需と投機のどちらがSolanaの本体なのかという問いは、まだ決着していない。

速度の代償――分散性をどこまで手放したか

スケーラビリティ・トリレンマ(速度・分散性・セキュリティの三択)において、Solanaは明確に分散性を譲って速度を取った。この代償は数字に表れている。

バリデータ数は2023年3月のピーク約2,560から、2026年初頭には約795へと約68%減少した。背景にあるのは運用コストで、バリデータの運用には年間約$49,000規模、投票費用だけで年300〜350 SOLがかかる。この負担が小規模オペレーターを淘汰し、ゼロ手数料で運用できる機関バリデータへの集約を招いた。分散性の指標であるNakamoto係数も31(2023年)から約18〜20へ悪化しており、ネットワークを停止させるのに必要な独立主体が減ったことを意味する。

過去には複数回のネットワーク全停止も起きている。スパム洪水やクライアントのバグが原因で、初期のSolanaは輻輳管理の仕組みを欠いていた。公式に認識された直近の大規模停止は2024年2月の約5時間で、その後もTRUMPミームコインのローンチ時など高負荷局面で性能劣化が報告された。2025年末にも障害が報じられている。

この弱点への根本対策が、Jump Crypto製のFiredancerだ。C言語で書かれた新バリデータクライアントで2025年12月にメインネット稼働し、単一クライアント依存という障害の単一障害点を解消する狙いがある。テスト環境では100万TPS超を実証したが、現状は多くのバリデータが移行版のFrankendancerを稼働させている段階だ。Firedancerの普及とNakamoto係数の回復が、Solanaの信頼性を巡る評価の分かれ目になる。

SOLへのアクセス手段と、投資家が追うべき指標

SOLへの投資手段は、直接保有とステーキングだけではなくなった。2025年10月にスポットSOL ETFがローンチし、2026年4月までに累計$1.02Bの流入を集めた。直接保有できないTradFi資金が流入する経路ができたことで、週次のETFフローが価格動向の指標として機能し始めている。さらにGrayscaleのGSOLのように、ステーキング報酬を含むステーキング型ETFがNYSE Arcaに上場するという新カテゴリも生まれた。直接保有、ETF、LSTのいずれを選ぶかは、保管・税務・利回りの違いを踏まえた判断になる。

投資家が継続的に追うべき指標を整理すると、まず実需の最良の代理変数である非投票トランザクション(直近で112.6M/日)、決済・HFT適性を測るfinality(現行12.8秒、Alpenglowで150ミリ秒を目指す)、実利用の広がりを示すアクティブアドレス(日次約2.1〜2.75M)が基本になる。経済面ではChain FeesとApp Fees(App Feesは日次約$6.4〜7.4M)がトークン需要とバーンの源泉を示す。

分散性とリスクの面では、バリデータ数とNakamoto係数の推移が信頼性の先行指標になる。ステーキング率と利回りは売り圧と誘因のバランスを示し、SIMD-0411の帰趨で変動しうる。資金フローではETF週次フローとFTX破産財団のSOLアンロック日程が両端にある。後者は予測可能な売り圧として、過去に繰り返し二桁の調整を誘発してきた。実需テーマの進捗はRWAとステーブルコインの時価総額で追える。

Solanaを評価するということは、結局のところ「速度をどれだけ実需に変換できているか」と「速度のために手放した分散性をどこまで取り戻せるか」という二つの問いに、これらの指標で答え続ける作業に他ならない。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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