Akash Network(AKT)徹底分析:BME稼働後のトークン経済と、ナラティブとファンダの乖離をどう読むか

Akash Networkは、AWS・Google Cloud・Azureが寡占する数千億ドル規模のクラウド市場に対し、遊休GPU・CPUを逆オークションで売買させる分散型クラウド(DePIN)として動いている。2026年に入ってから、このプロジェクトの投資判断は一段と難しくなった。トークン経済が根本から再設計され、同時にチェーンそのものの移行案が浮上しているからだ。本稿では価格予想には踏み込まず、なぜいまのAkashがこの状態にあるのかを、市場構造とオンチェーンの数字から解剖していく。

目次

Akashが解こうとしている問題は「価格」ではなく「供給の出所」である

Akashの説明はしばしば「AWSより安い」で終わるが、投資家が見るべきはそこではない。安さは結果であって、原因は供給side(供給側)の構造にある。

中央集権クラウドの設備投資は、単一企業が長期需要に賭けて先行してデータセンターを建てる形を取る。これに対しDePINは、その設備投資を分散したトークンインセンティブに置き換える。需要が増えればトークン価格が上がり、プロバイダーの採算が改善し、新規ハードウェアが自発的にネットワークへ接続される。供給拡大のタイミングを企業の計画ではなく市場が決める、という設計だ。Akashの逆オークションで価格が下がるのは、提示価格に対してプロバイダーが競り下げるからであって、運営が値下げしているわけではない。

この設計が成立する前提として、需要側の逼迫がある。生成AIと大規模言語モデルの拡大でGPUは希少資源となり、高性能コンピュートの調達コストは上昇を続けている。創業者のGreg Osuriが描く中期シナリオはさらに踏み込んでいて、エージェント型AIは人間が直接AIを使う場合の10〜40倍のトークンを消費し、Gartnerは2026年末までに企業のエージェント導入率40%を見込んでいる。米国のデータセンター集積地である北バージニアは、AI負荷の増大により2027年6月までに電力信頼性基準を割り込むと予測されている。後述するHomenodeという製品は、この「電力とプライバシーをローカルに分散させる」という発想から逆算して作られている。

逆オークションという価格決定機構が、足元の数字を崩している

Akashに自動マーケットメイカー(AMM)の類は存在しない。テナントがCPU・メモリ・ストレージ・GPU・ネットワーク要件をSDL(Stack Definition Language、Docker Composeに近い記法)で記述し、その注文がオンチェーンにブロードキャストされる。条件を満たすプロバイダーが価格を競り、デフォルトで最低価格の有効入札が落札してリースが成立する。プロバイダーはテナントのコンテナイメージでKubernetes podを起動し、数分でワークロードが立ち上がる。

この機構の弱点が、2026年第1四半期の数字に表れている。Messari(Akashstats / Artemisソース)によれば、Q1 2026の新規リースは43,540件でQoQ+27.1%と3四半期連続で回復した一方、リース売上は253,250ドルとQoQで45%減少した。件数は増えているのに金額が崩れているという、一見矛盾した動きだ。これは供給側の競争密度が薄まると価格決定が下方に振れやすいという、逆オークションの構造的な脆さの表れと読める。後述するBMEはこの伝達経路に手を入れたが、肝心の単価形成そのものを補強したわけではない点に注意がいる。

供給side(供給側)の薄さが、このプロジェクト最大の構造的弱点

プロバイダーになる障壁は高い。サーバー級ハードウェア、Kubernetesの運用スキル、GPUワークロード用のNVIDIAカード、安定した回線が要求される。最小要件で8 CPUコア・16GB RAM・150GB SSD、推奨構成では12コア以上・48GB以上のRAM・500GB以上のSSDを3台、OSはUbuntu 24.04 LTSのx86_64のみ(ARM不可)という水準だ。これがそのまま供給の薄さに直結している。

数字で見ると深刻さがわかる。Messariによれば、Q1 2026のアクティブプロバイダー平均は58で、ネットワーク史上の低水準にある(前四半期63、1年前69からの低下)。平均GPU容量は334ユニット、稼働中は84ユニットにとどまる。AWSが数百万GPUを抱える事実と並べると、Akashの「稼働率の高さ」が母数の小ささの裏返しであることが見えてくる。

Akashの対応策は供給ベースを別カテゴリーへ広げることだった。2026年2月25日に早期アクセスを開始したHomenodeは、RTX 4090・RTX 5090・Quadro RTX 6000 Adaといったコンシューマー/プロシューマー向けカードを受け入れ、データセンターを越えて個人ハードウェア所有者のメッシュへ供給を拡張する。これはどの分散型クラウドもこれまで構築していなかった供給カテゴリーだ。3月26日にはAkash Agentsが立ち上がり、パーミッションレスなコンピュート上でAIエージェントをワンクリックでデプロイできるようにした。初期シードはOpenClawとNous ResearchのHermes。いずれもプロバイダー離脱とAIワークロードの構成変化への構造的対応だが、採用指標はまだ公表されていない。供給回復が実数として効いてくるかどうかは、今後数四半期の観察対象になる。

BME:コンピュート需要をAKT需要へ強制的に通す再設計

2026年最大の変化が、3月23日に稼働したBME(Burn-Mint Equilibrium)である。これを理解するには、その前に何が壊れていたかを押さえる必要がある。

AEP-23によるステーブルコイン統合は、テナントがUSDC建てで支払えるようにして売上成長を後押しした。ところがこれはAKT需要を意図せず削いだ。トークンが決済フローから外れ、ネットワークが伸びてもAKTを買う理由が薄くなったのだ。インフラ系トークンが抱えがちな「プロダクト活動とトークン需要のリンクが切れる」問題が、Akashでも顕在化していた。

BMEはこのリンクを、ユーザーに変動資産を持たせずに復活させる仕組みだ。テナントはACT(Akash Compute Token)という非譲渡・USDペッグのコンピュートクレジットで支払う。ACTはAKTをバーンすることで発行される。ユーザーがコンピュートに資金を投入するとAKTが市場で買われてバーンされ、ACTがミントされる。リース決済時にはACTがバーンされ、その時点の価格でAKTがプロバイダーへ再発行される。つまりコンピュート需要1ドルごとに、必ずAKTを一度経由させる。ユーザーから見える単位はドル建てで安定し、経済の土台はAKTに置く、という二層構造である。クレジットカード決済も同じ経路を通り、即座にAKTの市場買いを発生させる。

実装はMainnet 17(v2.0.0)で4提案を同時に通した。AEP-76がBME構造を定義し、AEP-78がCosmWasmスマートコントラクトでロジックを監査可能・アップグレード可能にし、AEP-80がネイティブオラクルとTWAP計算を導入、AEP-81がPyth NetworkのAKTUSD価格をWormhole経由で取り込む。価格ソースを複数化して操作リスクを抑える設計だ。ガバナンス提案No.318は3月6〜13日の投票で99.7%の賛成で可決された。

BMEは「常にデフレ」ではない——投資家が誤読しやすい非対称性

BMEを単純な恒久バーン機構と捉えると判断を誤る。供給への純効果は、AKT価格がミント時と決済時のあいだでどう動いたかに依存する。

ACTをミントするためにAKTをバーンした時点よりも、決済時にAKTが値上がりしていれば、同じドル建て支払いを満たすのに再発行すべきAKTが減り、供給は純減する。逆にAKTが下落していれば、同じドルをカバーするのにより多くのAKTを再発行することになり、供給は拡大しうる。BMEはAKTの価格モメンタムに対する増幅器であって、上昇局面でのみ純デフレに働く。さらにACTがアウトスタンディングである限り、対応するAKTはBME Vaultに隔離され、流通量から一時的に抜ける。フロート削減という即時効果と、価格差分による恒久的な純バーンまたは純インフレという二つの効果が同時に存在する。

足元の規模は控えめだ。MessariはVault稼働から3月31日までに53,520 AKTがバーンされたと報告しており、9日間で1日平均およそ5,950 AKT。Vaultはコミュニティプールから300,000 AKTでシードされている。問題は規模で、Q1 2026のリース売上ランレート(年率約101万ドル)では、バーンは発行のごく一部しか相殺できない。BMEは伝達経路を正したが、流す量がまだ小さい、というのが現状の正確な描写になる。

ステーキングの実質利回りはマイナス圏にある

AKTの役割は、チェーンのセキュリティを支えるステーキング、ガバナンス投票、そしてBME下での価値交換の三つに整理できる。最大供給量は約3.88億AKTで固定され、2026年5月時点の循環供給量は約2.71億トークンとされる。

ここで投資家心理に効くのがインフレとの綱引きだ。創世時のインフレは54% APYで概念上3.75年ごとに半減する設計だったが、2025年3月のProposal 283でインフレ上限8%・下限4%へ引き下げられ、Cosmos SDKがステーキング比率を目標に動的調整している。Messariの試算では、Q1 2026の年率インフレは8.94%。一方でステーキング利回りは名目で約7.3%にとどまるため、インフレ後の実質利回りはおよそマイナス0.9%〜1.6%となる。長期保有者は希薄化に晒されており、BMEのバーンがこのマイナスを埋めるほどの規模に育つかどうかが、トークンを持ち続ける合理性を左右する。

二つの売上数字が並存する理由を理解しないと評価を誤る

Akashの財務を見るとき、最初に引っかかるのが売上の数字が文脈によって大きく異なる点だ。MessariはQ1 2026のリース売上を253,250ドルと報告する一方、Akashは同じ期間に約500万ドルのコンピュート支出を自己報告している。20倍近い開きがある。

この乖離はスコープの違いから来ている。Messariの253Kはオンチェーンで確定したリース売上に絞った数字であり、Akash自己報告の約500万ドルはより広いコンピュート支出(おそらくグロスの支出総額)を指すと見られる。どちらが正しいという話ではなく、何を測っているかが違う。投資家がプロジェクトのバリュエーションを組むときに最も足をすくわれやすいのがこの点で、自己申告のグロス値を売上と取り違えると、P/Revenueのような指標が一気に楽観方向へ歪む。Akashの場合、少なくともオンチェーン側は検証可能で、後述するように競合との比較でこの検証可能性そのものが評価軸になる。なお通期では、Messariの2025年通年レポートが年間売上315万ドル・前年比128%増を示しており、トレンドとしては伸びている。

実際に誰が、なぜAkashを使っているのか

ナラティブの真偽は、本番ワークロードの顔ぶれで測れる。Akashで名前の挙がる顧客はVenice、ElizaOS、Morpheus、Gensynなどで、これらはテストネットの実験ではなく稼働中のプロダクションだ。Veniceはプライベートで検閲されないAI対話と画像生成の推論ワークロードにAkashのGPUを使い、MorpheusはコンピュートをAkashのプロバイダー経由でルーティング、ElizaOSはAIエージェントをネットワーク上で動かしている。

供給側の信認という意味で象徴的なのが、NVIDIAに買収されたBrev.devがAkashと統合し、NVIDIA GPUへのパーミッションレスなアクセスを提供している点だ。NVIDIA自身がAkashトークンを保有しているとも報じられている。Prime IntellectはAkash Supercloud上でNVIDIA H100・A100を使い、HuggingFaceやSemiAnalysisらと組んで100億パラメータのINTELLECT-1を分散学習させた。これはこの規模のモデルを分散コンピュートで初めて訓練した事例にあたる。

利用者がAkashを選ぶ理由は安さだけではない。検閲耐性、データを運営に握られない自己主権的な運用、ベンダーロックインの回避が、特にオープンモデルを扱う層に効いている。AkashMLという推論サービスはOpenAI互換APIを提供し、70Bクラスのモデルを中央集権クラウドより70〜85%安い水準で動かせる。OpenRouter上では1日17億トークンの処理を突破し、日次トークン使用量でCloudflareを上回ったとされる。汎用コンピュートとしてのAkashと、推論特化のAkashMLは収益の出方が異なるため、ここを分けて見ると数字の解像度が上がる。

競合との差は「検証可能性」で測る

DePINコンピュートの主役はRender、io.net、Akashの三つだが、これらは同質の競合ではなく、別々のアーキタイプだ。Renderは結果検証とクリエイターエコノミクスに寄った高品質GPUレンダリング、io.netはAI向けの大規模GPUコーディネーションとコスト効率、Akashは競争入札による汎用分散型クラウドである。Akashの優位はカバー範囲の広さで、Renderがレンダリング中心なのに対し、AkashはKubernetesで汎用コンテナワークロードを回せる。

投資家にとっての差別化軸は、売上の検証可能性そのものだ。Akashの売上はオンチェーンで監査でき、io.netは自己報告、Renderは非開示という構図になっている。売上を確認できなければトークンは評価できない。公開数字ベースでAKTは約28倍のP/Revenueで計算できるのに対し、Renderの同比率はそもそも算出不能だ。時価総額では2025年12月時点でRenderが7.21億ドル超、Akashが約1.13億ドルとされ、Renderが大きく先行している。この差は、Renderの非開示でも成立する高単価のハリウッド系顧客やOctaneRender統合という参入障壁が市場に評価されている一方、Akashのパーミッションレスモデルが「思想的に純粋だが運用上は荒い」プロダクトと見なされている、という非対称性を映している。コンピュート売上がスケールするという前提に立つなら、検証可能なAkashのほうがバリュエーションを組み立てやすいという見方もできる。

なおBittensorはしばしばDePINに括られるが、コンピュートやストレージを貸すのではなくAIの出力そのものをオンチェーンで報酬化する設計のため、直接競合というより隣接カテゴリーとして扱うほうが整理がつく。

パーミッションレス設計が払ってきたコスト——攻撃と脆弱性の履歴

供給側が誰でも参加できるという設計は、そのまま攻撃面の広さでもある。2025年3月29日、AkashはブロックチェーンとConsoleの双方を標的にした悪意あるトランザクションの急増、いわゆるスパム攻撃に見舞われた。ネットワークは輻輳し、数時間にわたり新規デプロイができなくなった。影響は四半期の数字に直接出ており、Q2 2025の新規リースは46,000から19,000へとQoQ59%減、混乱が小規模プロバイダーの離脱を招いた。コアチームとバリデーターは数時間以内にトランザクションコストを調整して対応したが、パーミッションレスである以上、この種のコストは構造的に付きまとう。

技術的な脆弱性も記録に残っている。2024年5月、セキュリティ企業ChainLightがAkashに重大な脆弱性を発見した。インスタンスの所有権検証がTLS証明書のコモンネームとシリアル番号だけに依存し、証明書フィンガープリント自体を見ていなかったため、攻撃者がデプロイ所有者になりすまして任意のインスタンスで任意コマンドを実行できる状態だった。修正済みではあるが、認証設計の根幹に関わる種類の欠陥で、エンタープライズがリアルタイム推論を載せる際に問われるのはまさにこうした信頼性だ。ハリウッドのスタジオはノード離脱をある程度許容できても、金融機関のリアルタイム推論は許容しない。エンタープライズ級の保証を狙うReserved Instancesは2026年8月のローンチが予定されているが、モデルとしては未実証のままだ。

運営主体とガバナンス、そしてチェーン移行という最大の分岐点

Akashの運営の中核はOverclock Labsで、創業者のGreg OsuriとAdam Bozanichが率いる。Osuriはインド農村部の出身でオープンソースへの強い信念を持ち、AngelHack創業やFirebaseへの貢献を経てこのプロジェクトに至った。ガバナンスはオンチェーンで300以上の提案を処理してきた実績があり、2026年3月には両面市場の流動性回復を目的にコミュニティプールから100万AKTのローンを承認している(Proposal 316)。意思決定機構が機能している点は、次に述べる移行の判断主体としても効いてくる。

その最大の分岐点が、Cosmos SDKチェーンの廃止と新ネットワークへの移行案だ。Osuriは現行チェーンを廃止し、より強いセキュリティと成長を狙って別ネットワークへ移ると表明しており、Solanaが候補に挙がっている。これは高リスク・高リターンの触媒だ。Solanaのようなチェーンへの移行が成功すれば、スループット改善と新規開発者の流入につながりうる。一方で技術的複雑性、移行期の混乱、コミュニティ分裂という下振れリスクを抱え、しかも明確なタイムラインがない。Akashの価値の一部はCosmosのIBC連携に支えられてきたため、移行はその互換性価値を毀損する側面も持つ。コミュニティ主導と謳われている以上、前述のガバナンス機構がこの移行をどう捌くかが、投資判断の前提条件になる。

投資家が次に確かめるべき三つの数字

Akashは、強力に再設計されたトークン経済と、地道なユーザー採用の現実とが正面衝突している局面にある。BMEは「需要がトークン価値へ伝わる経路」を技術的に通したが、その経路を流れる高単価の需要がまだ十分に来ていない。価格水準そのものは本稿の対象外として、見るべき数字を整理しておく。

一つ目はリース当たり売上とGPU稼働率で、件数だけが増えて単価が崩れる現状が反転するかどうか。二つ目はプロバイダー数で、58という史上低水準からHomenodeやAgentsが供給を実数で押し戻せるか。三つ目はBMEのネットバーンが、年率8.94%のインフローと名目7.3%のステーキング利回りが作るマイナスの実質利回りを埋める規模へ育つか。この三つが改善方向を示して初めて、投機を超えた経済活動としての裏付けが固まる。そしてその全体を、Cosmosからの移行というまだタイムラインの定まらない地殻変動が覆っている。


本稿は事実関係の整理と分析を目的としたもので、投資助言ではない。暗号資産は高リスクであり、投資判断は自己責任で行う必要がある。データはMessari、Akash公式レポート、各種公開情報に基づき、時点は本文中に明示した。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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