Monadは2025年11月24日にメインネットを稼働させた、EVM互換のレイヤー1ブロックチェーンだ。Paradigm、Dragonfly、Coinbase Venturesなどから累計2.25〜2.44億ドルを調達し、CoinbaseのトークンセールプラットフォームでICOを実施。$0.025・FDV約25億ドルで約2.69億ドルを85,820人から集めた。ここまでは典型的な大型L1ローンチの数字である。
ただし投資家が向き合うべき論点は、稼働から半年を経た今、技術の良し悪しではない。MonadのエンジニアリングはほぼコンセンサスとしてEVM互換の高速チェーンとして完成度が高いと評価されている。分岐点になっているのは、低フロート・高FDVのトークン構造が生む構造的な売り圧と、資本(TVL)は集まっているのに手数料収入が極端に薄いという「需要の質」のギャップ、この二つだ。本稿はこの二点を軸に、Monadの市場構造・技術的背景・競合との差・投資家心理を分解する。
なぜ「並列EVM」という設計が選ばれたのか
Monadの存在意義を理解するには、まずDeFi流動性の偏在構造を押さえる必要がある。オンチェーン金融の流動性のおよそ7割はEVM(Solidity)エコシステムに存在している。一方で標準的なEVMは単一スレッドの逐次実行を前提としており、処理能力は毎秒10〜15トランザクションがボトルネックになる。
この制約に対する従来の解は二つに分かれていた。ひとつはSolanaのように非EVMの新しいランタイムを構築する道。これは高い処理能力を得られる代わりに、Solidity開発者の資産と成熟したツールチェーンを捨てることを開発者に強いる。もうひとつはEthereumのレイヤー2に逃げる道だが、これはEthereumのセキュリティを継承する代償として独自の経済圏を持ちにくい。
Monadが取ったのは第三の道で、EVMバイトコード互換を一切崩さずに、実行レイヤーだけを並列化するというアプローチだった。開発者はコードを書き換えずに既存のSolidityコントラクトをそのままデプロイでき、それでいて逐次実行のボトルネックを外せる。Category Labs(旧Monad Labs)の中核がJump Trading出身で、ミリ秒を競う高頻度取引のエンジニアリング文化を持ち込んだ点が、この「互換性を捨てずに性能を取る」という難問への挑戦を支えている。
技術アーキテクチャ:競合との差はどこにあるか
Monadのアーキテクチャは五つの構成要素で組み立てられている。Blockworks Researchの整理に沿うと、楽観的並列実行(Optimistic Parallel Execution)、MonadBFTコンセンサス、遅延実行(Deferred Execution)、自作ステートDBのMonadDB、ブロック伝播層のRaptorCastである。
中核は楽観的並列実行だ。Monadは全トランザクションを「衝突しない」と楽観的に仮定して並列実行し、同一のステート(たとえば同じ残高)に触れる衝突だけを事後的に検出して、その分だけ正しいデータで再実行する。各トランザクションは最大でも2回しか実行されない。静的コード解析で依存関係のあるトランザクションを事前に予測することで、再実行のオーバーヘッドを抑える設計になっている。重要なのは、この並列実行の最終結果が逐次実行と完全に一致する(deterministic)という点で、ここがMonadの技術的なこだわりにあたる。
ここでSolanaとの差が明確になる。SolanaのSealevelランタイムは、開発者がトランザクションごとに読み書きするステートを事前宣言する必要がある。これによって並列化を実現するが、開発者にRustと固有のプログラミングモデルを要求する。Monadはこのstate宣言を不要にし、EVMをそのまま使いながら楽観実行と事後ロールバックで並列化する。トレードオフは、極端に衝突が多いシナリオでMonad側がロールバックのコストを負う点にある。逆にSolanaは非同期ランタイムゆえに過去に輻輳や障害の履歴があり、Monadのdeterministicな実行は予測可能性で勝るという評価が技術コミュニティから出ている。
コンセンサスのMonadBFTはHotStuff派生のBFTで、合意ラウンドを2回に削減し、約0.8秒のファイナリティを実現する。tail forking耐性とMEV由来のreorg(チェーンの巻き戻し)リスクへの対処が組み込まれている。遅延実行は合意と実行を分離して、実行をコンセンサスのクリティカルパスから外す設計だ。ノードの推奨要件は32GB RAM・16コアとコンシューマ級に収まっており、これがバリデータの分散性(稼働時で約170拠点)と運用コストの議論に効いてくる。
低レイテンシが変える市場構造:AMMからCLOBへ
Monadの処理性能が実際の利用者にとって意味を持つのは、オンチェーンの市場構造そのものを変えうるからだ。Ethereumやレイヤー2では、ガスコストとレイテンシの制約から、AMM(自動マーケットメイカー)による受動的流動性が事実上唯一の現実解だった。流動性提供者は価格レンジに資金を置くだけで、能動的なマーケットメイクはオンチェーンでは割に合わなかった。
Monadのサブ秒ファイナリティと低コストは、フルオンチェーンのCLOB(中央指値注文板)を実用域に入れる。MonadエコシステムのネイティブプロジェクトであるKuruがその代表で、オフチェーンのシーケンサーやカストディに依存せず、注文・マッチング・決済をすべてオンチェーンで完結させている。CLOBはAMMと異なり、マーケットメイカーが最適な価格帯に能動的に流動性を集中できるため、スプレッド縮小・スリッページ低減・資本効率の面で構造的に優位とされる。つまりMonadにおける議論は「AMMが優れているか」ではなく「チェーンの性能でAMMの限界を超えられるか」に置き換わっている。利用者がMonadを選ぶ理由があるとすれば、この市場構造の選択肢が広がる点にある。
資本は乗ったが手数料が伴わない:TVLと収益の乖離
ここからが投資判断の核心だ。MonadはTVL(資本)を集めることには成功しているが、その資本を支える手数料収入(実需)が極端に薄い。
数字で見ると、TVLはローンチ直後の1.5〜2億ドル付近から、2026年4月時点で約3.55億ドルまで伸びている。ところが日次のオンチェーン手数料は3,000ドル未満で、年換算しても2,100万〜2,500万ドル規模。DefiLlamaのデータではRevenueが手数料の4.3%程度、P/F(価格対手数料)レシオは約191倍という水準になる。資本評価に対して、チェーンが生む実際のキャッシュフローが桁違いに小さい。
この乖離の背景には、TVLの構成上の問題がある。Monad上のTVLのおよそ9割は、UniswapやCurve、Morpho、Gearbox、Upshiftといった既存のマルチチェーンプロトコルが単にMonadへデプロイしたものだ。Monad固有の設計を活かしたネイティブアプリではない。手数料の大半も「MONのスワップと流動性追加」に由来しており、多様なエコシステム活動から生まれているわけではない。DEX出来高は24時間で2.15億ドル規模に達しているが、その牽引役はUniswap(6,200万ドル)であって、ネイティブのKuruはTVL150万ドル超・24時間出来高1,100万ドル超とまだ小さい。
つまり「資本は乗っているが、有機的な手数料収入はまだ伴っていない」状態にある。インセンティブ駆動から実需駆動へ移行できるかが、稼働半年の段階では未証明のままだ。Monadが10,000 TPSの容量に対して実際には約0.07%しか使われていないという事実も、需要が容量に追いついていない現状を裏づける。高い処理能力は需要が存在して初めて意味を持つ指標であり、現状のオンチェーン活動は実負荷下のネットワークというより初期段階のそれに近い。
構造的売り圧:アンロック・スケジュールという時限装置
Monadのトークン構造は、低フロート・高FDV型の典型だ。ローンチ時点で総供給1,000億MONのうち50.6%がロックされていた。内訳はチームが約27%、投資家が約19.7%、Category Labs Treasuryが約3.95%。現在の循環供給は約118億MON(総供給の約11.83%)にとどまる。
問題は解除のタイミングと量だ。投資家分・チーム分・Treasury分はいずれも1年のクリフを経て、その後1/48ずつ月次で解除され、2029年第4四半期に完全解除に至る。最初の大型クリフは2026年11月24日、メインネット稼働の1周年にあたる。これがMON投資カレンダー上で最も大きな供給イベントになる。2026年4月24日にはバリデータ報酬として1.7021億MON(総供給の0.17%)の小規模な解除がすでに発生している。
加えてインフレも効く。各ブロックで25 MONが鋳造され、年間でおよそ20億MON(初期供給の約2%)が新規供給される。base feeのバーンで一部相殺されるものの、需要が並行して伸びなければ、解除とインフレの両方が継続的な売り圧として積み上がる構造になっている。
供給の集中度もこの売り圧リスクを増幅する。トップ10ウォレットが循環供給の約42%を保有しており、アンロック前後のボラティリティと突発的な売りに対してマーケットが脆弱な状態にある。流通量が少ないうちは価格が動きやすく、解除が本格化する局面で大口保有者の利益確定が価格に直接効きやすい。
バリデータ経済とステーキング設計の現状
MONの保有者にとっての収益源はステーキングだが、その設計には固有の特徴と未完成な部分が同居している。MonadはdPoS(委任型プルーフ・オブ・ステーク)をMonadBFT上で運用し、現状のステーキングAPRはバリデータのcommissionとuptime次第でおおむね12〜15%の水準にある。報酬原資は25 MON/blockのインフレ報酬とpriority feeで構成される。
アクティブなバリデータセットはステーク上位200に限定され、バリデータになるには自己委任10万MON以上、かつ総委任1,000万MON以上が要件になる。ここで投資家が留意すべきは、スラッシングの扱いだ。Monadは設計上slashable(罰則対象)なオフェンスを記録する仕組みを持つものの、プロトコル内の自動執行は現時点で未実装で、ネットワークの成熟に伴って変更される見込みとされている。セキュリティモデルがまだ完成形に達していないという事実は、ステーキング利回りの裏側にあるリスクとして見ておく必要がある。
一方で流動性面の設計は他のPoSと差別化されている。アンボンディング期間は約5.5時間(1エポック)で、7〜28日を要する一般的なPoSネットワークと比べて極端に短い。さらにaprMON、sMONAD、shMON、gMonadといったリキッドステーキングトークンがエコシステムのLST層を形成しており、ステーキング中の資本をDeFiで二重活用する経路が用意されている。ロック中のチーム・投資家トークンはステーキングできない設計になっており、これは報酬がパブリック流通分に向かうことで初期の報酬集中を避ける意図がある。
ステーブルコインL1競合のなかでの立ち位置
Monadの競合を性能軸(Solana、Sui、Ethereumレイヤー2)だけで捉えると、2025年から2026年にかけて台頭した別カテゴリの競合を見落とす。決済・ステーブルコイン特化型のL1、すなわちPlasma、Stable、Tempo、Codexといった「ドルネイティブ」チェーン群だ。
Monadは厳密にはステーブルコインL1ではない。汎用のEVM互換L1でありながら、USDT、USDC、USDe、PYUSD、USDSという主要な決済グレードのステーブルコインがすべて展開済み、あるいは展開を表明しており、高スループットEVMのステーブルDeFi拠点として位置づけられている。ここで決定的な差が出るのは、チェーンの経済がステーブルコインのフローに依存しているかどうかだ。Plasma、Stable、Codexはガス・バリデータ経済・プロダクトのすべてがステーブルコイン建てで設計されており、USDTやUSDCが離れれば経済が崩壊する構造を持つ。対してMonadはSolanaやEthereumと同様、ステーブルコインが去ってもチェーン自体は動く汎用型だ。
この違いは、特定のナラティブに依存しないチェーンを求める財務担当者や決済企業にとっては選好理由になりうる。Monadが元Visa暗号資産部門のRaj Parekhが率いるPortalを買収し、ステーブルコイン決済基盤を強化した動きも、この文脈で読める。同時にMonadは、Berachain、MegaETH、HyperEVMといった2024〜2025年に登場した「app-chain EVM」コホートとも比較される。このコホートのなかでMonadとMegaETHは生のEVM性能を追い、Berachainはトークンインセンティブを再設計し、HyperEVMはネイティブのL1 CLOBを持つという形で、それぞれ最適化の方向が分かれている。
投資家心理:Hayes対Honの論争が映すもの
Monadをめぐる投資家心理は、メインネット稼働直後に起きた一つの公開論争に凝縮されている。2025年11月末、BitMEX共同創業者でMaelstromのArthur Hayesが、「BTC・ETH・SOL以外のL1はほぼゼロに向かう」「MONは高FDV・低フロートのVCコインで、99%下落しうる」と発言した。
Hayesの論点は明確に技術ではなくトークノミクスに限定されていた。彼は「ロックされた90%の供給を市場がどう吸収するのか」「organicな需要はどれだけ必要なのか」「月約1%のインフレ(運営側は年約2%と反論)でこの価格水準をどう維持するのか」を、創業者のKeone Honに公開で問うた。Honはこれに対し、MonadBFTやJITコンパイラ、170拠点の分散性、vested tokenはステーキング不可といったインフレ抑制設計、年2%という他L1より低いインフレ率などの技術・設計面で反論した。
この対立の本質は「トレーダー対ビルダー」という世界観の差にある。Hayesの懐疑は即時的で直感的で分かりやすい。一方でHonが主張する技術的優位は、証明に数年を要する。コミュニティからは、Maelstром自身もロック付きトークンを保有しているというHayesの利益相反を指摘する声も出た。どちらが正しいかは現時点では決着しないが、この論争そのものがMONに対する市場の中心的な不安、すなわち「供給を実需が吸収できるのか」という問いを正確に映し出している。
今後の試金石:インセンティブから実需への移行
Monadの運営側も、実需ギャップを認識した動きを見せている。インセンティブ・マッチングプログラムのMomentumは、2026年第2四半期にWave 2を予定しており、その設計は「出来高」ではなく「リテンション(再利用ユーザー)」を証明したチームを支援する方向に置かれている。これは、インセンティブで膨らませたTVLが実需に転化しないという問題への運営側の回答にあたる。
技術面では2026年6月9日に速度を25%向上させ、AIセキュリティツールのBugfinderを導入し、ブロックタイム短縮を提案するMIP-12が出ている。決済・RWA(実物資産)領域では前述のPortal買収に加え、アジアの信用市場の債券トークン化を手がけるMu Digital(1億ドル規模のTVL)やPendleとの連携が進む。AI領域ではオンチェーンAI推論のFortyTwo(日次4,500件超の推論)などが動いている。
ただし、これらの施策が機能するかどうかの最大の試金石は、2026年後半から本格化するアンロックだ。38.5%にあたる385億MONのエコシステム枠は、戦略的に使われれば開発者とユーザーを引きつける原資になる。OptimismやArbitrumが大規模なエコシステムインセンティブで急速にTVLを伸ばした前例もある。だが同じ原資が、戦略を欠けば成長の触媒ではなく売り圧そのものに転化する。Monad固有のネイティブアプリが、既存プロトコルの単純デプロイを超えて手数料収入を生み始めるか。供給の解除カーブと実需の成長カーブのどちらが速いか。MONを保有するか否かの判断は、最終的にこの一点の見極めに収束する。