Jito(JTO)徹底分析:SolanaのMEVインフラを握る企業の収益構造と投資家が直面する乖離

Solanaのリキッドステーキング市場でJitoSOLが首位に立ち、Jito-Solanaクライアントがネットワークの大半のステークを処理している事実は、もはやデータの問題ではなく市場構造の問題になっている。Jitoは単なるステーキングプールではなく、Solanaのブロックがどう組まれ、誰がそこから利益を得るかを決める層に食い込んでいる。本稿では、この企業が何から収益を得ているのか、なぜ収益が伸びても JTO の価格がそれに連動しにくいのか、そして2025年から2026年にかけて進行しているBAMへの移行が投資家にとって何を意味するのかを、事実ベースで分解する。

目次

Jitoが握っているのはステーキングではなくブロック構築の入口

Jitoを「MEV付きのリキッドステーキング」と説明すると、収益の半分を見落とす。SOLをステークしてJitoSOLを受け取り、ステーキング報酬にMEV由来の上乗せが付くという部分は利用者側の体験にすぎない。Jitoという企業の収益エンジンは、その裏で動いているBlock Engineにある。

Solanaでトランザクションがブロックにまとめられるとき、その大半はJitoのBlock Engineを経由する。これはオフチェーンのブロックスペースオークションで、サーチャーがアービトラージや清算、サンドイッチといったMEV機会を含むバンドルを提出し、Jito-Solanaクライアントを走らせるバリデーターがそれを受理してティップ(chip)を支払う。Block Engineはこのティップ全体に対して6%の手数料を取る。Blockworks Researchの推計では、Jito Labsは2024年第4四半期だけでこのコミッションからおよそ2,500万ドルを得ていた。ステーキングプールの手数料収入とは桁の違う規模であり、Jitoが「ステーキング企業」ではなく「ブロック構築の関所を持つインフラ企業」である理由がここにある。

なぜこの位置を取れたのかという問いには、先行者として大半のバリデーターにMEVクライアントを採用させた事実が答えになる。バリデーターにとってJitoクライアントを走らせることは追加のティップ収入を意味するため、採用が採用を呼ぶ構造ができあがった。結果として、Jito-Solanaクライアントはネットワークのステークの大半を占めるに至り、これがJitoの堀であると同時に、後述するシステミックリスクの源にもなっている。

MEVティップの分配は誰の取り分かを巡る設計

Block Engineが集めた6%が誰に渡るかは、JitoのDAOガバナンスを通じて何度も組み替えられてきた。ここを理解しないと、JitoSOL保有者とJTO保有者がそれぞれ何を持っているのかを混同する。

2025年2月に稼働したTipRouterというNCN(Node Consensus Network)が、ティップ分配を分散化する形で運用されている。集められたティップの94%はバリデーターとステーカーへ返還され、残りの6%が手数料として処理される。その内訳は、5.7%がJito DAOへ、JitoSOLステーカーとJTOステーカーへそれぞれ0.15%という配分になっている。TipRouterはエポックごとにノードオペレーターがマークルルートについて合意し、オンチェーンプログラムにアップロードすることで、分配を検証可能な形にしている。

ここで投資家が押さえるべき非対称が出てくる。JitoSOLを保有すればMEVで底上げされたステーキング利回りが手に入るが、JTOを保有して得られるティップ分はわずか0.15%にとどまる。JTOはキャッシュフローを生む資産ではなく、その分配ルール自体を決めるガバナンス権だという設計上の区別が、後段のバリュエーション論に直結する。

JitoSOLの利回りはなぜ素のステーキングを上回るのか

JitoSOLが他のステーキング手段より選ばれる理由は、利回りの源泉が二層になっている点にある。Solanaのネイティブステーキングは、ネットワークのインフレ率に応じておおむね年6〜8%を返す。これに対し、MEVティップを取り込むリキッドステーキングトークンは、ネットワークの活動量に応じて歴史的に30〜80ベーシスポイントを上乗せしてきた。この上乗せ幅は相場が静かなときには小さく、ボラティリティが高いときには大きくなる。MEV収益が取引活動に連動する以上、JitoSOLの超過利回りはSolanaの賑わいそのものに対するベータだと言える。

もう一つの選好理由はコンポーザビリティにある。JitoSOLは標準的なSPLトークンであるため、KaminoやMarginfiでの担保、Orcaでの流動性供給といったSolana DeFi全域で再利用できる。ステーキング利回りをベースレイヤーに置き、その上にDeFi利回りを積む戦略は、洗練されたSolanaユーザーが実際に取っている運用であり、同時に最も高いリターンと最も高いリスクを併せ持つ。JitoSOLが選ばれているのは抽象的な利便性ではなく、この積み上げ運用の土台として機能するからだ。

TVLとアダプションの実数が示す位置

Jitoの市場支配は定性的な評価ではなく数字で確認できる。2026年初頭時点で、JitoSOLには1,450万SOLを超えるステークが集まり、TVLはおよそ29.2億ドルに達していた。これによりJitoSOLはSolana最大のリキッドステーキングトークンとなり、Marinade(mSOL)を上回る規模を持つ。利回り競争の観点では、プールポジションをトークン化したINFが2026年初頭に主要LSTのなかで最も高い6.44%のAPYを示し、JitoSOLやJupSOL、mSOLを上回った局面もあった。Jitoが量で勝っていても、利回りの先頭を常に走っているわけではないという点は、競合分析で見落とされやすい。

利回りで完全に差別化できない以上、Jitoの優位は規模とインフラ統合に依存する。160を超えるバリデーターを束ね、StakeNetのSteward Programがオンチェーンのバリデーター実績データに基づいて自動でステーク配分を最適化する仕組みが、利回りの安定性と分散の両立を支えている。mSOLが200以上のバリデーターに分散して多様性を取りに行くのに対し、Jitoはアルゴリズムによる選別で効率を取りに行く設計の違いがある。

BAMが書き換えるブロック構築の市場構造

2025年から2026年にかけてJitoで起きている最大の変化は、ステーキングでもティップ分配でもなく、Block Assembly Marketplace(BAM)への移行である。これはJito自身がCEOの言葉を借りれば「自分たちを分散化する」取り組みであり、収益構造とバリュエーションの両方を組み替えにかかっている。

技術的な背景はこうだ。従来のBlock Engineはクローズドソースで、単一の信頼された主体が運用していた。BAMはこれを、TEE(Trusted Execution Environment、具体的にはAMDプロセッサのSEV-SNP)内で動くBAMノードのネットワークに置き換える。トランザクションは実行されるまで暗号化されたまま保たれ、取引順序はオンチェーンの暗号学的アテステーションによって検証可能になる。これによりサンドイッチ攻撃のような有害なMEVを抑制しつつ、誰が見ても順序の正しさを証明できる状態を作る。構造としてはEthereumのProposer-Builder Separation(PBS)をSolanaに持ち込むものであり、Flashbotsの BuilderNet から着想を得ている。

投資家にとってより手応えがあるのはアダプションの実数だ。Jitoの2026年第1四半期決算によれば、BAMのステークシェアは四半期のあいだに約14%から28.1%へと倍増した。BAMバリデーターにステークされたSOLは5,920万から1億1,930万へ倍増し、BAMを走らせるバリデーター数は56%増の363に達した。四半期終了後もシェアは31〜32%まで上昇を続けており、一過性の数字ではないことを示している。この加速の裏には、JIP-31として可決された早期採用者向け補助金がある。DAOがプロトコル手数料収入を補助金プールに振り向け、BAMを走らせるバリデーターへ分配する仕組みで、2026年第2四半期末にかけてゼロへ段階的に縮小する設計になっている。補助金で立ち上げ、自走へ移すという典型的な「成長モード」の資本配分だ。

BAMがもたらすもう一つの層がPluginである。これはアプリ側が独自の取引順序ロジックを定義できる仕組みで、たとえばPerps DEXがHyperliquidの成功要因となったテイカー側のスピードバンプを実装したり、Pythのようなオラクルがユーザーがその価格にアクセスするのと同じブロック内でフィードを更新したりできる。アプリはPlugin機能に対して手数料を課すことができ、その一部はバリデーターやJito DAOへ還元され得る。Jito Labsはこれを通じてSolana上のトークンの「大規模なDeFiリプライシング」が起きうると述べている。

リステーキングとNCNが開くJTOの第二の効用

TipRouterは単発のティップ分配機能ではなく、Jito Restakingという汎用フレームワークの最初の実装にあたる。この層を理解すると、JTOがガバナンストークン以上の効用を獲得しつつある道筋が見える。

Jito Restakingは、JitoSOLをはじめとするSPLトークンを再ステークし、NCNと呼ばれる外部ネットワークに経済的安全性を提供する仕組みだ。再ステークされた資産はVault Receipt Token(VRT)として流動性を保ったまま、ノードオペレーターに委任され、複数のネットワークへ同時に安全性を供給して報酬を得る。オラクルネットワークやDePIN、ブリッジ、あるいはブロックチェーンそのものがNCNを展開して、任意の処理結果について合意し、報酬とスラッシングを執行できる。TipRouterはこのフレームワーク上で、Solanaの数十億ドル規模のREV(Real Economic Value)分配を担う最初のNCNとして動いている。

利回りの観点では、TipRouterのアップグレードによって優先手数料(priority fee)の分配が可能になった。Jito Foundationの試算では、年間400万SOL規模の優先手数料を前提に半分を分配した場合、ステーカーの実効APYは7%から7.7%へと相対的に7%押し上げられる計算になる。SIMD-0096の通過後、バリデーターが優先手数料の100%を取得しステーカーに渡らない状況が生まれていたため、TipRouterはこの分配を標準化する経済的な役割を担っている。スラッシングリスクやVRTが常に1対1で償還できるとは限らないという流動性リスクは、この追加利回りの裏側として明示されている。

収益が伸びてもJTO価格が連動しにくい構造的な理由

ここがJTO投資の核心であり、投資家心理が最も揺れる論点でもある。プロトコルの収益指標は強含みで推移しているのに、トークン価格がそれに素直に反応しない局面が続いてきた。その理由は感情ではなく設計にある。

2025年8月に可決されたJIP-24は、Block Engineと将来のBAMから生じる手数料の100%をJito DAOトレジャリーへ振り向け、それまで存在した創業者への収益分配を廃止した。これによりDAOトレジャリーには年間で数千万ドル規模のキャッシュフローが流れ込む構造ができた。一方で、JTOステーカーが直接受け取るティップ分は依然として0.15%にとどまる。つまりJTOは、配当を出す株式のように収益の取り分を保有者へ直接渡す設計にはなっておらず、手数料スイッチとトレジャリーをコントロールするガバナンス権にとどまっている。DAOがこのトレジャリーをバイバックや利回り補助としてどう展開するかが、JTOの効用を左右する。

供給側の力学もこの乖離を増幅させてきた。JTOの総供給は10億で、配分はCommunity Growth 34.29%、Ecosystem Development 25%、Core Contributors 24.5%、Investors 16.21%という構成だ。リニアベスティングが供給ショックを和らげる設計になっているとはいえ、過去には大型アンロックが売り圧として観測されてきた。2026年1月から2月にかけても投資家・チーム・開発向けの月次アンロックが続いており、新規供給が需要を上回ればアンロック主導の売り圧が価格上昇を阻む構図になる。Jitoの収益が成長しても、value accrual(価値の蓄積)がトークン保有者に届く経路が細いままなら、ファンダメンタルズと価格の乖離は埋まりにくい。

ただし2026年に入って力学が変わりつつある兆候もある。Q1 2026決算では970万JTOがバーンされ、循環供給に対するデフレ圧として作用した。同時にJitoはバイバックを一時停止し、その原資をBAM普及のためのバリデーター向けインセンティブへ振り向ける選択をしている。資本を保有者へ還元するか、成長へ再投資するかという判断で、Jitoは明確に後者を選んでいる。投資家がこの選択をどう評価するかが、当面のJTOの需給を左右する変数になっている。

Solanaへの一体化が生むシステミックなリスク

Jito固有のリスクは、競合やトークン需給とは別の次元にある。それはJitoがSolanaに深く食い込みすぎた結果として生まれる集中リスクだ。

Jitoクライアントが走らせるバリデーターがステークの大半を握っているという事実は、優位であると同時に脆弱性でもある。Jitoクライアントに重大なバグが生じれば、ネットワークの広範な部分が同時に影響を受けかねない。これはJito利用者だけの問題ではなく、Solanaネットワーク全体のシステミックリスクであり、Solana Foundationや独立系開発者が論点として提起してきた。BAMが進めるノードの分散化(最終的に50〜100ノードへの拡大とオープンソース化の計画)は、この集中を技術的に緩和しようとする試みでもあるが、現時点でBAMノードの初期運用はJito Labs自身が担っている。

加えて、MEV利回りそのものが安定しない点も構造的なリスクだ。Jitoシステムに流れ込むティップ量はSolana DEXでどれだけ取引が起きているかに完全に依存するため、相場が冷えれば超過利回りは細る。2026年に発生したDriftの2.85億ドル規模のエクスプロイトのようなエコシステム全体を揺らすショックは、広範な売り圧とJitoの手数料収入減の両方を同時に引き起こす。JTOへの投資は、突き詰めればSolanaの取引活動とエコシステムの健全性そのものへのレバレッジドベットに近い。

機関投資家チャネルと消費者向け展開という次の賭け

Jitoが2026年に動かしている戦線は、コアのステーキング事業の固守だけではない。機関投資家向けと消費者向けという二方向の拡張が、収益構造を多角化しにかかっている。

機関投資家側では、規制された経路を開く動きが続いている。2026年5月6日にはNASDAQ上場のSolana Company(HSDT)との提携を発表し、アジア太平洋地域での機関投資家向けバリデーターインフラとステーキング商品の構築、BAMバリデーターの展開を進める計画を示した。同年4月には韓国のカストディアンKODAとの提携、さらにHanwha Asset ManagementとのJitoSOL ETFを巡る協議も報じられている。これらが狙うのは、機関のSOLカストディから直接JitoSOLをミントし、企業トレジャリーの利回り需要を取り込むことだ。成功すればJitoSOLに対する粘着性の高い需要が生まれ、間接的にJTOの効用を押し上げる経路になる。a16zがJitoへ単独で5,000万ドル規模の出資を行ったことも、この機関向けの方向性に資本市場が賭けていることを示している。

消費者側では、Jito LabsがJTXという「プロリテール」向けのトレーディング端末を2026年7月に立ち上げる計画を進めている。スポット取引から始め、後にPerpsや予測市場を統合する構想で、これはインフラ企業からアプリ企業への踏み出しにあたる。JTXが成功すれば、Jitoのスタックを通じた新規ユーザーの取り込みと取引量の増加が、新たな収益源とJTOエコシステムの効用につながる設計になっている。Jitoが束ねたBAM、リステーキング、StakeNet、そして消費者向けアプリという複数の層が、Solanaを「あらゆる資産の取引会場」にするという同社の構想のもとで一つのスタックに収斂しつつある。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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