Ethena(USDe)徹底分析:合成ドルの収益構造とシステミックリスクを読み解く

Ethenaは2025年9月にTVL約16B、市場第3位のステーブルコインまで到達したのち、同年10月10日のクラッシュで構造的な脆弱性を露呈し、2026年6月時点でTVLは約4.8Bまで縮小した。この一年で起きたことは、合成ドルというモデルの強さと脆さを同時に証明する実験になっている。本稿では、USDeの収益がどこから生まれ、なぜ資金が流入し、そして流出したのかを、メカニズムの内部構造まで踏み込んで分析する。

目次

USDeが奪いにいっている市場の席はどこか

ステーブルコイン市場の総供給は2026年に320B前後で推移している。このうちUSDTが約58%、USDCが約24%を占め、上位5発行体が市場の約89%を握る。USDe単体のTVL約4.8Bは、全体の1.5%程度にすぎない。

ここで投資家が把握すべきは、USDeがUSDTやUSDCと同じ席を争っているわけではないという点だ。USDTとUSDCは決済・準備資産レイヤーであり、発行体が裏付け資産(米国債やドル預金)の利息を総取りし、保有者には利回りを渡さない。Ethereum上ではこの二者だけで供給の85%以上を占め、残りの15%枠にDAI/USDS、crvUSD、PYUSD、そしてUSDeといった「カテゴリの多様性」が同居している。

USDeが取りにいっているのは、この残り15%のなかの「利回り付きドル」という細分化された需要だ。ドルを保有したいが利息ゼロは受け入れられないという保有者の機会費用を埋める設計であり、決済通貨としての地位を狙っているわけではない。USDTの牙城を崩す話ではなく、利回りを求める資本がどのプロトコルの合成ドルに滞留するかという、もっと狭い競争のなかにEthenaは置かれている。

利回りの源泉:なぜ永久先物のファンディングは買い手超過になるのか

USDeの利回りは、二つの源泉から生まれる。スポット担保(主にstETHなどのLSTとスポットBTC/SOL)が生むステーキング利回りと、同額のショート永久先物が受け取るファンディングである。前者は年率3%程度で安定するが、利回りの変動を決めているのは後者だ。

暗号資産の永久先物市場では、ファンディングレートが構造的にプラスに偏る。理由は需給構造にある。永久先物はリテールと中小ファンドにとって最も手軽なレバレッジ調達手段であり、その建玉はほぼ常にロング側へ偏る。ロング側が超過すると、8時間ごとにロングがショートへファンディングを支払う。Ethenaのショートレッグは、この支払いの受取側に座り続ける。

この構造は強気相場では強力に作用する。投機家のロング需要が旺盛なほどファンディングは厚くなり、sUSDeの利回りは二桁に達する。一方で、ファンディングが圧縮またはマイナスに転じると、利回りは数日で消える。実例として、2024年8月のファンディング反転ではAPYが11日間で19%から4%へ低下した。10月クラッシュ後も、二桁だった利回りは3%台まで落ちている。Ethenaが保有する保険基金(2026年3月時点で約61M、供給の約1.1%)は、マイナスファンディング期間の補填に充てられるが、供給比1.1%という薄さは長期の弱気相場には足りない。

利回りが市場センチメントに正相関するという性質こそ、Ethenaの資金フローを理解する鍵になる。強気相場では圧倒的な利回りで資本を吸い寄せ、弱気相場では真っ先に資本が逃げる。

ペッグはどう維持されるのか:一次市場と二次市場の分離

USDeが$1に張り付く仕組みは、デルタニュートラル構造そのものとは別に、ミント/償還の裁定によって担保されている。

直接ミント・償還ができるのは、KYC/KYBを通過しホワイトリストに登録された主体に限られる。彼らは外部市場でUSDeの価格が$1から乖離したとき、Ethenaのコントラクトと外部市場の差を裁定する。たとえばCurve上でUSDeが0.95に下落した場合、ホワイトリスト主体は外部市場で安く買い、Ethenaから$1で償還して差益を取る。この動きがペッグを引き戻す。Ethenaは即時償還に応じるため、裏付け資産の約0.5%を常にステーブルコイン形態でミントコントラクトに保持し、複数カストディアンから補充する設計を採る。

この機構はUSDCのAuthorized Participant型と構造的に似ているが、決定的な違いは裏付けが現金ではなく暗号資産+ショートヘッジである点だ。ペッグの信頼性は、ショートヘッジが正常に機能し続けるか、そして担保を効率的に清算できるかに依存する。

ここで把握すべきは、一次市場のペッグ(Ethenaが保有する裏付けの価値)と二次市場の価格(取引所での売買価格)が分離しうるという点だ。後述する10月クラッシュで「本源価値は$1のまま、Binance上でのみ$0.65」という現象が起きた背景は、まさにこの分離にある。

オフチェーン・カストディとOES:FTX型イベントへの設計上の防壁

Ethenaの構造的な特異点は、担保はオンチェーンで保有しながら、ヘッジ用のショートポジションはCEXの口座内に存在するというハイブリッド設計にある。この二つを橋渡しするのがOff-Exchange Settlement(OES)だ。

Ethenaは資産をCEXのバランスシート上に直接置かない。Copper、Ceffu、Cobo、Fireblocksといった機関向けカストディアンが資産をオンチェーンで保管し、CEXには証拠金として委任するだけの形を取る。Copperの場合、Ethena・Copper・第三者の三者で保管するsegregated walletと、Copper破綻時に資産が破産財団から隔離されるbankruptcy-remoteなomnibus walletの二方式を提供する。Fireblocksの方式では、カストディアンが破綻してもEthenaと提携先がウォレットへのアクセスを保持する。

この設計が意味するのは、CEXが破綻してもヘッジ担保そのものは取引所の破産財団に取り込まれにくいということだ。FTX崩壊で多くの資金が取引所口座内で凍結・喪失したのとは異なる耐性を持つ。ただし残るリスクも明確で、カストディアン自身の障害でEthenaの入出金・委任が滞れば、ミント/償還のワークフローは停止する。さらに、ショートポジション自体はCEXのシステム内に存在するため、取引所の支払能力や価格参照の歪みからは逃れられない。OESは取引所の信用リスクを分散するが、消去はしない。

sUSDe×Pendle×Aaveのレバレッジループ:内生的に積み上がったシステミックリスク

10月クラッシュで露呈した「隠れたレバレッジ」の正体を理解するには、Ethenaが外部から受けた脅威ではなく、Ethena自身がDeFiに組み込まれることで生み出した内生的な構造を見る必要がある。

中心にあるのは三層のループだ。投資家はまずUSDeをステークしてsUSDeを得る。次にPendleでsUSDeをPT-sUSDeに変換し、変動する利回りを固定金利化する。そのPT-sUSDeをAaveに担保として預け、ステーブルコインを借り入れ、再びPTを買い増す。これを繰り返すことで実効レバレッジがかかる。Pendleの固定金利とAaveの借入金利のスプレッドが、各ループで数%の純益を生む構造だ。

このループがどれだけ積み上がったかは、Aave上の数字に表れている。2025年9月時点でAave上のEthena関連資産は約6.8Bに達し、うち約4.2BがPTだった。つまり、貸借市場の担保の相当部分が単一プロトコル由来の資産で占められていた。ポイントファーミングの報酬を加味すると、見かけのAPYが200%を超える局面もあり、レバレッジ需要を一段と煽った。

問題は巻き戻し時に増幅が逆回転する点にある。PT資産にはdiscount rate risk(割引率リスク)があり、市場が荒れて割引率が拡大すればPTの評価額が下がる。担保価値の下落は清算を呼び、清算による売りがさらに価格を押し下げる。10月クラッシュでUSDe担保のマージンポジションが大量に強制清算されたのは、この内生的レバレッジが一斉に解けたからだ。Ethenaの本源的な担保が健全であっても、その上に積み上がったレバレッジ層が連鎖を媒介した。

10月10日クラッシュが証明したこと:連鎖リスクは理論ではなかった

2025年10月10日、暗号資産市場は約19B超の清算カスケードに見舞われ、約170万のトレーディング口座が清算された。この局面でUSDeはBinance上でのみ$0.65まで下落した。Bybitでは$0.95止まり、主要DeFi流動性プールのCurveでは0.3%しか動かず即座に$1へ戻っている。

価格乖離がBinanceに集中した理由は、同取引所の市場設計にあった。Binanceは自社内オーダーブックでUSDeの価格参照を設定し、かつUSDeを担保適格資産として扱っていた。さらにEarn商品で12%のAPRキャンペーンを打ち、トレーダーがUSDT/USDCをUSDeに替えて担保として再利用する動きを促していた。OKXのCEOは、このキャンペーンがUSDTからUSDeへの資金移動と担保再利用を通じて隠れたレバレッジループを作ったと批判している。

メカニズムはこうだ。局所的な売りでBinance上のUSDe参照価格が急落する。すると同取引所でUSDeを担保にしていたマージンポジションが一斉に再評価され、強制清算される。清算がさらなる売りを呼ぶ。本源価値は$1のままであっても、取引所の価格参照設計とレバレッジループが「見せかけのdepeg」を実害に変えた。Binanceは事後に283Mを補償し、USDeの最低価格しきい値設定や償還価格の指数組み込みといった是正策を発表した。

このケースが投資家に突きつけたのは、Ethena単体の担保健全性とは別の次元で、外部の市場設計とレバレッジ構造がペッグの「見え方」を歪め、それが実損を生むという事実だ。合成ドルのリスクは、プロトコルの内部だけを見ても評価しきれない。

収益構造の歪み:稼ぐプロトコルなのにトークンに渡る利益が薄い理由

DeFiLlamaの実データは、Ethenaの収益構造に投資家が見落としがちな歪みがあることを示している。年率換算の総手数料は約363Mに達するが、プロトコル収益(Revenue)は年率換算でわずか約12.4Mにとどまる。

この乖離は、稼いだファンディングとステーキング利回りの大半がsUSDe保有者へのコストとして流出するために生じる。2026年第2四半期で見ると、Gross Protocol Revenue約43.6Mのうち、sUSDe Staking Rewards約19.7M、Extra Rewards約16.5M、Aave Liquidation Fees約6.3Mがほぼ全額コスト側に転化し、最終的なGross Profit(実質的にMint Fees)は約1.05Mに過ぎない。

ここから読み取れるのは、Ethenaが利回りのパススルー業者であり、自社が抜くマージンは構造的に極めて薄いということだ。巨大なTVLと手数料を回しても、トークン保有者に分配できる純利益の絶対額は小さい。2025年通年では約230Mの収益を計上したDeFi最高収益クラスのプロトコルでありながら、この純利益の薄さがENAのバリュエーションを長く制約してきた。

ENAのFee Switchが解こうとしている課題と、解ききれない制約

ENAはこれまでガバナンスとエアドロップ配布のためのトークンに過ぎず、プロトコル収益へのエクスポージャーを持たなかった。これを変えようとするのがFee Switchだ。

Fee Switchは2024年11月にWintermuteが提案し、2025年9月に発動条件を満たし、2026年第1四半期に発動された。これによりプロトコル収益の一部がsENA保有者へ流れる設計となり、ENAをガバナンストークンからキャッシュフロー連動資産へ転換する試みが始まった。890Mのバイバックプログラムと組み合わせ、ENAを生産的な資産へ作り替える狙いがある。

ただし構造的なジレンマが残る。sENAへ収益を回すほど、sUSDeへ配分する利回りが薄まり、USDeの競争力が落ちる。Ethenaは従来トレジャリーへ振り向けていた分を再配分することで吊り合いを取ろうとしているが、前述の通り純利益の絶対額そのものが薄い。さらにバイバックは収益に依存するため、収益が落ち込んだりsUSDS等の競合利回りが上昇したりすれば突然停止しうる。間欠的なバイバックはむしろトークン価格に有害だという分析も出ている。ENA価格は2026年6月時点で約$0.084、ATHの$1.52から約94%下落した水準にある。

USDe・USDtb・iUSDeの三層構造:規制をどう設計で回避しているか

Ethenaの規制対応は、単一プロダクトでの綱渡りではなく、目的の異なる三つのドルを使い分ける構造になっている。

USDeそのものは、GENIUS Actが定めるペイメントステーブルコインの定義の外にある。利回り付きの合成ドルであり、米国人へそのまま販売することは再構築なしには難しい。この規制上のグレーゾーンを迂回するために用意されたのがUSDtbとiUSDeだ。

USDtbは2024年12月にSecuritizeと組んで立ち上げられ、BlackRockのトークン化マネーマーケットファンドBUIDLを主たる裏付けとするT-bill型ドルである。2025年7月にAnchorage Digital経由でGENIUS準拠化され、10月にはAnchorageへ発行管理を完全移管、U.S. Bankがカストディを担う構成へ移った。供給は約1.5Bに達し、機関投資家が触れるのはこの規制内ドルだ。Franklin TempletonやFidelityのEthenaへの関心は、合成ドルへの賭けというより、この規制準拠インフラと配布網への賭けと読むのが妥当だろう。さらに機関向けには、コンプライアンス対応でラップしたiUSDeという別ラインも進められている。

つまりEthenaは、利回りを求めるDeFiネイティブにはUSDe、規制内の機関にはUSDtb、コンプライアンス要件の厳しい層にはiUSDeと、需要層ごとにリスクと規制の異なるドルを当てている。USDe本体の規制上の位置づけが依然グレーであるという事実は、この三層設計の前提として押さえておく必要がある。

競合との差:合成ドルの設計思想はどこで分岐するか

利回り付きドルの競争相手は、設計思想によって明確に分かれる。

Falcon FinanceのUSDfは、純粋なデルタニュートラルではなく、超過担保と複数戦略を組み合わせたハイブリッド型を採る。準備資産の幅を広げ、RWAを取り込むことでEthenaの弱点であるCEXファンディング依存を突きにきている。2025年8月時点でsUSDfが30日APY9.30%を記録しsUSDeを上回った局面もあった。一方でFFトークンは循環供給が総供給の四分の一弱にとどまり、アンロックによる希薄化圧力が重い。

Maple FinanceのsyrupUSDCは、合成ドルではなく機関向けの担保付き融資から利回りを生む信用ベースのモデルだ。利回りの源泉がファンディングではなく信用であるため、市場センチメントへの連動が低く、相対的に安定する。10月クラッシュ後にUSDeから流出した資金の一部が、syrupUSDCやSkyのsUSDS、OndoのRWA系へ向かったのは、この市場連動の低さが選好されたためだ。

Ondoはトークン化米国債を中心とするRWAリーダーで、低利回り低ボラティリティの対極に位置する。Ethenaの利回りが市場に正相関するのに対し、これらは米国債利回りという外部のアンカーに紐づく。

投資家がこの比較から読むべきは、10月クラッシュを境に資金選好が「高いが市場連動する利回り」から「低いが安定した利回り」へ傾いたという市場心理の変化だ。Ethenaの利回りモデルは強気相場で最も輝き、弱気相場で最も資金を失う構造を内包している。

Convergeの頓挫が示す、成長モデルの天井

Ethenaの利回りモデルには構造的な天井がある。利回りの源泉がCEX永久先物市場のファンディングである以上、その規模はオープンインタレストの上限と市場流動性に縛られる。トレーディング型の戦略は、TVLが一定規模を超えると利回りの希薄化を招く。Falconが超過担保とRWAへ向かったのも、この天井を意識した動きだ。

Ethenaがこの天井を超えるために描いたのがConvergeだった。Securitizeと組み、Arbitrum技術とCelestiaを用いて、TradFiとDeFiを橋渡しするRWA特化のL1として2025年第2四半期のローンチを掲げた。USDeとUSDtbをガストークンとし、ENAステークでバリデーターを構成する設計で、合成ドルへの依存から軸足を移す中核プロジェクトだった。

しかしConvergeは予定通りローンチしなかった。2025年11月時点で「近い将来の予定は見当たらない」と報じられ、Converge前提で280M超のプレデポジットを集めたEthena育成のDEX「Terminal Finance」は、ローンチを断念し全額返金して撤退した。ロードマップの中核が機能しなかったという事実は、Ethenaの軸足移動が想定通りに進んでいないことを示している。

投資家が継続的に追うべき指標

Ethenaを評価軸として持ち続けるなら、優先度の高い指標から順に体温を測る必要がある。

第一にsUSDeのAPYと競合利回りとのスプレッドだ。sUSDS、syrupUSDC、トークン化米国債の利回りに対してEthenaが優位を保てるかが、資金流入の生命線になる。3%台が続けば流出は止まりにくい。第二にファンディングレートの環境で、プラスが継続するかマイナスへ転じるかが利回りの源泉そのものを左右する。第三にRevenueとFeesの乖離が改善するか、すなわち年率Revenueが12M台の薄さから脱せるかが、ENAのバリュエーションを規定する。

加えて、保険基金の供給比率(現在約1.1%)が次のストレスへの耐性を、sUSDe対USDe比率(2026年初で約55%)が利回りレッグへの信認度を示す。USDtbの供給と機関採用の進捗はEthenaの第二の柱の成長を、Convergeの進展有無はロードマップ復活の可否を測る材料になる。ENAのアンロックスケジュール(循環供給約7.96B、総供給上限15B)が生む希薄化圧力も、トークン保有者には外せない。

これらの指標は、Ethenaが「合成ドルの成長物語」なのか「規制準拠ドルへの軸足移動とトークン価値捕捉に挑む転換期のプロトコル」なのかを、データで判別するための観測点になる。Ethenaの強さと脆さは表裏一体であり、どちらの面が前に出るかは、上記の指標が描く軌跡のなかに表れる。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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