Compound(COMP)を読み解く──DeFi貸借のオリジネーターが4位に沈んだ構造的理由

DeFiレンディングのカテゴリで「最初に来た」プロトコルが、いま序列の中段にいる。2026年4月時点でAave V3が約$19.4B、Spark($6.8B)、Morpho Blue($4.9B)に次いで、Compound V3のTVLは$2.7B前後で4〜5位に位置する。トップのAaveとはおよそ10倍の開きがある。技術的な先行者がなぜここまで離されたのか、そしてCOMPというトークンが抱える固有の歪みは何か。投資家が判断材料にすべき論点を、市場構造と設計思想の両面から整理する。

なお前提として、Compoundはしばしば「DeFiの一角」として一括りに語られるが、DEXでもAMMでもない。供給された資産を担保に別の資産を貸し借りするオンチェーン・マネーマーケットであり、Uniswap型の自動マーケットメイカーとは収益構造も指標も別物だ。取引量(volume)で評価する対象ではなく、借入残高・利用率・基準資産別TVLで読む。この区別を曖昧にしたまま価格を語ると、判断を誤る。

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Comet設計が選んだ「1市場1基準資産」という賭け

Compound III(コードネームComet、2022年8月稼働)は、前バージョンV2と根本的に異なる構造を持つ。V2は任意の資産を供給して複数トークンで同時に金利を得られたが、その柔軟さがリスク管理を複雑にしていた。担保資産同士の相関や、ある資産の暴落が市場全体へ波及する経路を、ガバナンスが常に監視しなければならない。

Cometはこれをやめてアイソレーテッドマーケットへ振り切った。1つの市場で借りられる基準資産は1種類(多くはUSDC)だけ。供給者はその基準資産を貸し、借り手は複数種類の担保を差し入れて基準資産を引き出す。担保資産は金利を生まない。設計の狙いは障害の封じ込めにある。ある担保が問題を起こしても、被害はその市場の中に留まり、他市場へ連鎖しない。

代償は流動性の分断だ。USDC市場、ETH市場、USDT市場がそれぞれ独立したプールを持つため、資本が一箇所に集約されない。Aaveが全資産を単一の流動性コントラクトに束ねるモノリシック型で深い流動性の底を作っているのに対し、Cometは安全性と引き換えに資本効率の一部を手放した。2025年12月、V2を廃止しV3へ一本化する提案が99.99%の賛成で可決され、この設計思想への移行が事実上完了している。

技術設計のもう一つの特徴は、金利モデルも清算factorもすべてストレージではなくimmutable変数に格納している点だ。ガス効率は上がるが、パラメータを1つ変えるだけでも新しいCometの実装をデプロイし、proxyを差し替える必要がある。リスクパラメータの調整に手続き上の重さが伴う設計で、これは後述のリスク運用の機動性に直接影響する。

金利は利用率が決める──kinkカーブの読み方

供給金利も借入金利も、基準資産の利用率(Utilization、借入残高÷供給残高)の関数として自動的に決まる。ここに各市場ごとのkink(屈曲点)が設定されている。利用率がkink以下のうちは、カーブは緩やかだ。供給者の資金を遊ばせず、借り手にも使える金利を提供するため、資本効率を優先してスラックを許容する。

利用率がkinkを超えると話が変わる。プールが危険域に入り、供給者の引き出しが困難になり、清算に必要な流動性も枯れかける。そこで借入金利を急騰させ、借り手に返済を促し供給を呼び込んでスラックを回復させる。投資家が見るべきは利用率がkinkに対してどの位置にあるかであり、これがそのまま供給側APYの伸びしろと引き出しリスクを示す。

ここで注意すべき構造変化がある。かつてCompoundでは、供給者が得る利回りは借り手が払う金利に加えてCOMP報酬(流動性マイニング)の二階建てだった。2020年6月のこのCOMP配布こそ、イールドファーミングとDeFi Summerの引き金を引いた歴史的な仕掛けだ。だが2026年3月下旬の時点で、大半のデプロイでCOMP報酬は終了している。にもかかわらず、巷の価格分析の多くは、もう存在しない利回りを前提に組み立てられている。報酬の蜃気楼を織り込んだ皮算用と、純粋な借入金利だけで回る現在のCompoundは別物だと切り分ける必要がある。

清算はなぜabsorbとbuyCollateralの二段構えなのか

Cometの清算は他プロトコルと設計が違う。借り手の担保価値が清算閾値を割ると、清算者(ボット・コントラクト・ユーザー)がまずabsorb関数を呼ぶ。これで担保の所有権がプロトコルへ移り、ペナルティ(liquidationFactor)を差し引いた価値が基準資産で借り手に返る。借り手の負債は消え、担保が十分なら逆に基準資産の貸し手側へ回る。各吸収はプロトコルのリザーブが肩代わりする。

ここが肝心な点だが、absorbを呼ぶこと自体には清算者への金銭的な見返りがない。インセンティブは次のbuyCollateral関数にある。プロトコルが抱えた担保を、オラクル価格から割り引いた価格で買い取れる権利だ。割引率はStoreFrontPriceFactorと資産のLiquidationFactorから導出される。つまり清算者はabsorbで担保をプロトコルへ吐き出させ、同一トランザクション内でbuyCollateralを叩いて割引担保を拾い、差益を取る。だからMEV清算ボットが常に水面下の不良ポジションを狙い続けている。

この設計には制約もある。プロトコルのリザーブがガバナンス設定のターゲット($5M)を超えていると、buyCollateralはrevertし担保を買えない。リザーブが足りているときは、プロトコル自身が担保を保有して値動きに賭ける建付けになっている。さらにCometはclose factorを全ケースで1(100%)に固定しており、清算閾値をわずかに割っただけの借り手も全量清算の対象になる。これを不利と見て、LTVに応じてclose factorを動的に変える案(0.92未満なら50%など)が2025年末に分析・提起されている。借り手としてのリスク許容度を測るうえで、この一律清算の挙動は押さえておきたい。

オラクルとパラメータ運用──「誰がリスクを決めているか」

金利カーブの形や清算factorの数値そのものより、それを誰がどう動かしているかが運用リスクの核心だ。価値計算が必要な箇所はChainlinkオラクルベースの仕組みで価格を取得している。2026年2月にはv4向けにChainlinkオラクルの統合が予定され、操作可能・不正確な価格データへの依存というDeFi貸借最大の脆弱性に手を入れる方向にある。オラクル操作は過去のDeFi貸借の主要な攻撃ベクトルであり、ここの堅牢性が担保評価の信頼性を左右する。

リスクパラメータの実務はGauntletが担っている。担保factor、清算閾値、供給キャップといった数値を、市場のボラティリティに応じて継続的に更新する委託先で、年$200万でCompoundと契約を更新してきた。ここで効いてくるのが前述のimmutable設計だ。パラメータ変更が新Cometのデプロイとproxy差し替えを要するため、AaveやMorphoのように設定値をその場で書き換える運用に比べ、緊急時の調整に構造的な遅延が生じうる。静的な前提でレバレッジを組む利用者は、Gauntletの更新スケジュールを無視すると足をすくわれる。

マルチチェーン展開とチェーン別の利回り差

CompoundはEthereum、Base、Arbitrum、Polygonで稼働している。同じプロトコルでも利回りはチェーンごとに違う。利用率がチェーンで異なるためで、BaseはパッシブなUSDC流動性が薄い分、Ethereumメインネットより供給APYが50〜100bp高く回ることが多い。つまり利用者は、どのチェーンの市場に供給するかで取れる利回りを選べる。本番の資金を動かす実務では、借り手や取引相手のいるチェーンに合わせ、利用率ギャップが開いたらリバランスするのが定石になっている。

ただしEthereumがCompoundの重心であることは変わらない。2026年4月時点でTVLの大半がEthereum上に集中している。この集中は、L2全体の地殻変動と重ねて読むと意味が見えてくる。2026年に入り、Base・Arbitrum・Optimismの3チェーンがL2トランザクションの約9割を処理し、それ以外の多くのロールアップが流動性を失いつつある。Compoundが展開チェーンをこの「勝ち組」に絞り込んでいるのは、流動性の薄いチェーンに分散して採算を割るより、資金が集まる場所に張る判断だ。なおTVLの数値は計測基準(net deposits方式かどうか、対象がV3単体か全体か)で$1.05B〜$2.7Bと出典ごとに幅があり、比較する際は基準を揃える必要がある。

COMPという「価値を受け取らないトークン」の問題

Compoundを投資対象として見るとき、最大の論点はCOMPの価値捕捉の欠如にある。COMPはガバナンストークンで、提案・投票・議決権の委譲ができる。だがプロトコルが稼ぐ収益──借入金利と供給金利のスプレッドとして積み上がるリザーブ──の分配を、COMP保有者は受け取らない。Uniswapをはじめ多くのDeFiが長く抱えてきた「ガバナンス専用トークン」の典型で、プロトコルが生むキャッシュフローとトークン保有者の経済的取り分が切れている。

供給面の論点として、COMPは流通率99.7%に達しており、新規発行による希薄化の余地はほぼ消えている。これは保有者にとって下方圧力が一つ減ったことを意味するが、同時に流動性マイニングという供給インセンティブの原資も尽きたということでもある。報酬で供給を呼び込む段階を終えた以上、Compoundは純粋な金利の魅力だけで資本を引き留めなければならない。直近24時間のプロトコル収益が数千ドル規模(手数料約$56,000に対しプロトコル収益約$4,200)という数字は、Aaveとの規模差をそのまま映している。

この価値捕捉の欠如をめぐる動きが、2024年のガバナンス騒動だった。ホエール「Humpy」率いるGolden Boysが、約$25M相当のCOMPを自グループ管理の利回り商品へ割り当てる提案を僅差で可決させた。settlementとして浮上したのが、リザーブの30%をステーキングしたCOMP保有者へ分配するstCOMP構想だ。ただしこのstCOMPは2026年時点でまだ稼働していない。現在のCompoundに存在するのは供給・借入・ガバナンスの三つだけで、ステーキングはコントラクト上に実装されていない。Uniswapが2025年後半にfee switchを稼働させ、ガバナンス専用から供給バーンによる価値捕捉型トークンへ転換したのと比べると、Compoundは同じ課題に対してまだ答えを出していない。投資家心理として、この「やると言って実装されていない」状態が、COMPのバリュエーションに織り込まれにくい不確実性を残している。

ガバナンスの集中──分散を謳いながらの構造的偏り

DeFiレンディングのオリジネーターでありながら、Compoundの意思決定は少数に集中している。投票権の多くが、創業者Robert Leshnerとa16zへ委譲されてきた。2024年のGolden Boys騒動では、最大の票委譲者であるa16zが問題の提案を棄権した。もし参加していれば勝利提案を覆せた規模の票を持ちながら、だ。背景には法的責任への懸念があったとみられる。Compound DAOはgeneral partnership(ゼネラル・パートナーシップ)として構成されており、能動的に投票するトークン保有者がDAOの行為に対して無限責任を負いうるという法的解釈が存在する。投票という行為自体が責任リスクを生む構造が、肝心な局面での棄権を招いた。

学術的なケーススタディでも、Compoundガバナンスはトークンと委譲が高度に集中し、定足数に到達する投票者は限られ、連合(coalition)が形成されやすいと分析されている。2026年3月のECBの研究は、DeFiガバナンス一般がインサイダーと取引所に集中し、規制上の説明責任を強制しにくくしていると指摘した。「誰でも提案できる」という建前と、実際には少数の大口委譲先が結果を左右する実態のギャップは、ガバナンス攻撃の再来リスクと規制対応リスクの両方を内包している。

創業者の離脱とエコシステムの重心移動

Compound本体の停滞を読むうえで見落とせないのが、創業者の現在地だ。Robert LeshnerはCompound Labsを離れ、いまはSuperstateの共同創業者兼CEOを務めている。Superstateが手がけたCrypto Carry FundはBitwiseに買収され(2026年6月1日付)、$267M超の資産を持ち、うち$100M超がDeFi上で担保化されている。ただしその担保先はCompoundではなくAaveやKaminoだ。創業者が立ち上げたファンドが、本家ではなく競合のレンディング上で運用されている構図は示唆的だ。

Superstateはさらに、公開企業がトークン化株式を引受会社を介さず直接発行できるDirect IssuanceプログラムをEthereumとSolana上で開始している。創業者の関心が、レンディングプロトコルそのものよりRWA(現実資産)のトークン化インフラへ移ったことが見て取れる。一方でCompound本体も機関路線へ舵を切っており、トークン化米国債を担保に受け入れ始め、機関参加がTVLの11.5%を占めるに至った。皮肉なのは、創業者が外で進めるトークン化と、本体が取り込もうとするRWA担保が、同じ方向を向きながら別の器で進んでいることだ。CompoundがAaveとの差を埋められるかは、このRWA・機関路線で後発の優位を作れるかにかかっている。

投資家が監視すべきKPIと論点

Compoundを評価する指標は、DEX的な取引量ではない。基準資産別の利用率がkinkに対してどこにあるか、借入残高(Active Loans)が伸びているか縮んでいるか、チェーン別TVLの分布がどう動くか──この三つが供給側の利回りと引き出しリスク、需要の実態を映す。USDC基準資産市場がCometの中心であり、ここの利用率が全体の体温計になる。

トークンとしてのCOMPを見るなら、監視点はstCOMPが実装に至るか否かに集約される。リザーブの30%分配が現実のオンチェーン機構として動き出せば、ガバナンス専用トークンから価値捕捉型への転換という、Uniswapが先に通った道筋をCompoundも辿ることになる。逆に構想が宙吊りのまま続けば、流通率99.7%で希薄化リスクが消えていても、キャッシュフローと無縁なトークンという評価は変わらない。技術的先行者がなぜ序列を落としたのかという問いの答えは、設計の保守性、価値捕捉の不在、ガバナンスの集中、そして創業者の離脱という複数の層が重なった結果として読むべきだ。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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