Celestia(TIA)を語るうえで最初に整理しておくべきは、これがDEXでもスマートコントラクトプラットフォームでもないという点だ。実行・決済・データ可用性という3つのレイヤーをひとつのチェーンが担う従来のモノリシック設計を分解し、Celestiaは「データの順序付け」と「可用性の保証」だけに特化している。スマートコントラクトもdAppも動かさず、ロールアップが投稿してくるデータを並べて、それが確かに公開されていることを保証する——やっていることはそれだけだ。
この割り切りが、投資判断を一見シンプルにする。TIAの価値は、ロールアップがブロブスペース(blobspace)を実際に買い続けるかどうか、ほぼその一点に収束する。ところが2026年前半時点で起きているのは、ネットワーク使用量と価格が完全に切り離された状態だ。ネームスペース活動は2025年12月26日に過去最高を記録した一方、同じ年にTIAは約90%下落した。使えば使われるほど価格が上がるという素朴な前提が、ここでは成立していない。本稿はこの乖離の構造を、需給・トークン経済・顧客構成・競合環境という投資家が見るべき軸から解きほぐしていく。
なぜ「データ可用性専用」のチェーンに金が払われるのか
Celestiaが存在できる理由は、ロールアップのコスト構造に明確なミスマッチがあったからだ。ロールアップが生成するトランザクションデータは、誰でも再実行して検証できるよう一定期間アクセス可能でなければならない。ただしこの「一定期間」は永久ではなく、不正を申し立てるチャレンジ期間、典型的には7日から14日で足りる。にもかかわらず、従来のロールアップはこのデータをEthereumのcalldataに、つまり世界で最も高価な台帳に永久保存する前提で料金を払っていた。
数週間あれば十分なものに永久保存のコストを払っている——この構造的なズレが、DA専用レイヤーという市場そのものを生んだ。実際のコスト差は桁が違う。Solana VMをEthereum上で動かすロールアップであるEclipseは、約83GBのデータをEthereumのblob価格で投稿していれば30万ドルを超えていたところ、Celestia上では約6,000ドルで済んでいる。50分の1の世界だ。ロールアップ運営者がCelestiaを選ぶ理由は、思想やナラティブではなく、この運転コストの差に集約される。
DAサンプリングという技術的前提——なぜブロックが大きくなれるのか
Celestiaのコストとスケーラビリティを支えているのが、データ可用性サンプリング(DAS)だ。ブロックデータを2次元のReed-Solomonエンコーディングで拡張し、ライトノードはブロック全体をダウンロードせず、ランダムに選んだごく一部の断片だけをサンプリングして「データが公開されている」ことを高い確率で検証する。
ここで投資家が押さえるべきは、スケーリングの方向がモノリシックチェーンと逆だという点だ。通常のチェーンはユーザーが増えるほど各ノードの負荷が上がり、処理が詰まる。Celestiaは逆で、サンプリングするライトノードが増えるほど、安全に扱えるブロックサイズが大きくなる。ネットワークが成長するほど容量が増えるという挙動は、DA専業という割り切りがあって初めて成立する。さらにNamespaced Merkle Trees(NMT)によって、各ロールアップは自分に関係するデータだけを取り出せる。ゲーム系チェーンのトランザクションが急増しても、別のDeFiロールアップのコストには波及しない——いわゆる「騒がしい隣人」問題を構造的に切り離している。
ブロブ手数料とステーキング——TIAの収益はどこから来るのか
TIA保有者・ステーカーの収益源は二系統に分かれる。ひとつはステーキング報酬で、これはインフレ、つまり新規発行されたトークンに由来する。もうひとつがブロブ手数料で、ロールアップがデータを投稿する対価として支払う。2026年の市場環境でステーキング利回りはインフレ率とステーク比率に応じておおむね年8〜15%の範囲で変動してきた。
問題は、この収益の大半が依然としてインフレ由来であって、実需であるブロブ手数料がまだ小さいことだ。手数料モデル自体は単純で、ロールアップはブロブのサイズと当時のガス価格に応じてブロブ単位で支払う。EIP-1559に似た動的価格で一部はバーンされる。実勢のコスト感は1MBあたり0.35〜0.45ドル、1日100MBを投稿するロールアップで年間約12,775ドルという水準だ。ここに後述する競合との価格差が効いてくる。利回りの源泉がインフレに偏っている限り、ステーカーが受け取った報酬を売却すれば、それがそのまま価格への下押し圧力になる。使用量が増えても価格が連動しない乖離の一因は、この収益構造にある。
4月のアンロックと無限供給——短期需給を支配する売り圧
中期の価格を語るうえで避けて通れないのが、ベスティング由来の供給増だ。2026年4月1日、seed・Series A/B・初期コアコントリビューター向けに約1.756億TIA、総供給の17.2%に相当する量がアンロックされた。当時価格で5,260万ドルを超える規模だ。重いのは、これら初期投資家の取得単価が0.01〜0.04ドルとされる点で、現在価格との差を考えれば利益を確定させる動機は構造的に強い。過去の大型アンロック後にTIA価格が下落してきた経緯もこれと整合する。
供給設計そのものもこの圧力を増幅させる。TIAは創世時の10億トークンに対してインフレが続く無限供給型で、循環供給は約9.2億TIAに達している。緩和策としてCIP-30およびCIP-31でベスト済みトークンのステーキング報酬がロックされ、報酬の即時流通は一定程度抑えられたが、早期投資家の元本そのものが市場に出てくる流れを止めるものではない。使用量が伸びてもこの売り圧を吸収しきれなければ、価格と利用の乖離は続く。投資家が見るべきは、新規供給を実需が上回る転換点が来るかどうかだ。
PoGという賭け——インフレ依存からの脱却を狙う構造転換
その転換点を人為的に作りにいくのが、Proof-of-Governance(PoG)だ。共同創業者John Adlerが提案したこの構想は、現行のPoSを部分的にではなく根本から置き換える設計思想を持つ。委任ステーキングと流動性ステーキングの契約を廃止し、新規発行はノードを運用するバリデータへのオフチェーン報酬として支払われる。バリデータはトークン投票ではなく別の基準で選出され、ガバナンス投票が低パフォーマンスノードに対する一種のスラッシングとして機能する。
経済的なインパクトは大きい。資産運用会社Bitwiseの整理によれば、PoGは年間発行を約5%から0.25%へ、供給増を95%削減する。同時に報酬を実際のネットワーク活動に連動させることで、TIAをインフレ報酬に依存する「債券的」資産から、実需に利回りが連動する「株式的」資産へと性格を変えようとしている。これが実装されれば、前節で見たインフレ売り圧の構造そのものが書き換わる。
ただし賭けである理由も明確だ。Kairos Researchの試算では、現行の5%インフレ下でTIAがネットでデフレに転じるには、1日あたりテラバイト規模のデータ投稿という極めて高いDA使用量が必要になる。PoGで発行を0.25%まで絞れば損益分岐点は劇的に下がるが、報酬を削られるバリデータが反発すればガバナンスが停滞し、導入時期がずれ込むリスクがある。創業者Mustafa Al-Bassam自身も当初はPoGに懐疑的だった経緯があり、設計の是非はコミュニティ内でも一枚岩ではない。これは確実な改善ではなく、実行リスクを抱えた構造実験として読むべきだ。
Eclipse一社で使用量の9割——顧客集中が意味すること
TIAの使用量を見るとき、実際には単一の顧客の動向を見ていることになる。Eclipseが現在、Celestiaのデータ使用量の90%超を占めているからだ。なぜこれほど偏るのか。EclipseはSolana VMをEthereum上でロールアップ化する設計で、ZK証明の生成オーバーヘッドを避けるために楽観的ロールアップモデルを採っている。この構成ではデータ可用性がそのままボトルネックになりやすく、安く大量にデータを投げられる高スループットのDAが事実上の必須要件になる。Celestiaの低コスト・高スループットは、Eclipseの設計思想と噛み合った結果として選ばれた。
裏を返せば、Celestiaの使用量はEclipse一社の事業動向に強く依存している。この顧客が方針を変えたり、別のDAへ移ったりすれば、使用量指標は一夜にして崩れうる。オンチェーンのアクティブユーザー数が約1,200と低水準にとどまり「死んだチェーン」との見方が一部で出ているのも、この集中構造と無縁ではない。50%とされるDA市場シェアの内実が、実は少数の大口に支えられている——この点はナラティブだけを追うと見落とす。
Celestia・EigenDA・Avail——「コスト対セキュリティ」で割れる市場
DA市場は単一勝者の市場ではなく、トレードオフの軸で住み分けが進んでいる。中心にあるのはコストとセキュリティの相反だ。
| Celestia | EigenDA | Avail | |
|---|---|---|---|
| セキュリティ源 | 独立PoS(主権型) | EthereumリステーキングETH | 独立PoS |
| スループット | 約1.33MB/s(8MBブロック) | 約100MB/s | 4MB/ブロック |
| コスト水準 | 高め | 最安 | 安い |
| バリデータ数の特徴 | 約100・中央集権リスク残 | Ethereumバリデータ活用 | 最大1,000で最分散 |
| 主な弱点 | スループット最下位・顧客集中 | DAC構造でスラッシング不在 | 実利用が発表に遅れる |
EigenDAは約100MB/sを達成し、Celestiaの約1.33MB/sを一桁上回る。MegaETHやEclipse級の高負荷チェーンがスループットを最優先する局面では、EigenDAが選ばれやすい。実際、L2BEATによればEigenDAを使うMantleとCeloの2チェーンだけでValidium/Optimium系TVLの約40%、約30.6億ドルを占める。コスト面でもEigenDAは優位で、同じ100MB/日の投稿でCelestiaが年間約12,775ドルかかるのに対し、EigenDAは約730ドルという試算がある。価格と速度の純粋な勝負では、Celestiaは負けている。
ではCelestiaの差別化はどこにあるのか。EigenDAはEthereumのリステーキングに依存するため、Solanaや非EVM圏のロールアップにとっては採用動機が薄い。さらにDAC構造でスラッシングが存在しないため、経済的セキュリティが実質的に稼働していないとの批判が短期の最大の弱点とされる。Celestiaは独立したPoSチェーンとして、Ethereumのガス市場のボラティリティを継承せず、主権を保ちたいロールアップに訴求する。住み分けの構図は、性能最優先のEigenDA、相互運用性と分散度のAvail、主権と独立性のCelestiaという三極だ。
DAはコモディティ化するのか——「底辺への競争」というシナリオ
投資家心理を左右する最大の構造的論点が、DAそのものがコモディティ化するという見立てだ。データの安全な投稿と検証という機能は標準化されたサービスであり、競合がコストと性能で収斂していけば、ブロブスペースの価格は限界費用、つまりゼロに近づいていく。この「底辺への競争」が進むと、DA手数料で稼ぐというビジネスモデル自体が成立しにくくなる。
この見方が正しければ、本当の勝負はブロブスペースの切り売りではなく、どのDAが主要ロールアップスタックのデフォルトになるかという統合の争いに移る。Celestiaの防御線はここにある。Arbitrum Orbit、OP Stack、Polygon CDKという主要フレームワークがすべてCelestiaをDAオプションとして統合しており、採用が増えるほどツール・ドキュメント・開発者の知見が集積する。ロールアップがCelestia固有の最適化を組み込むほど乗り換えコストが上がり、シェアがシェアを呼ぶフライホイールが働く。価格で負けても統合の厚みで顧客をつなぎとめられるか——TIAの中長期はこの一点にかかっている。
クロスチェーン展開——TIAを「ルーティング層」に変える試み
ブロブ手数料以外の需要源として進んでいるのが、相互運用性によるTIAの効用拡張だ。v4アップグレードではHyperlaneをネイティブなCosmos SDKモジュールとして統合し、Ethereum・Base・ArbitrumへのTIA直接転送を可能にした。同時に年間インフレ率を約7.2%から5.0%へ、33%削減している。前述のインフレ削減の流れと地続きの動きだ。
さらにその先にあるのがLazy Bridgingで、これが機能すればTIAは単なるDA支払いトークンを超えて、資産のルーティング層として振る舞う。Celestiaのエコシステムを離れずにモジュラーチェーン間で流動性を移動できるようになれば、TIA需要の源泉がDA手数料だけでなくクロスチェーン決済にも広がる。2026年中頃にはHibiscusを含むV8で単一署名のクロスチェーン送金とZK検証メッセージングが、後半には3秒ブロックと32MiB容量が予定され、長期にはFibreで最大1Tb/sのブロックスペースを掲げている。ただしこれらはいずれもロードマップ上の構想であり、容量を作っても実需が伴わなければ手数料には結びつかない。容量先行か需要先行か、投資家が検証すべきはその順序だ。
チームの大量売却という定性リスク
数値で測れないリスクとして、運営の利益相反を巡る論点がある。アンロック窓が開いた後、複数のコアチームメンバーが累計1億ドルを超える規模で大量に現金化したことがコミュニティの反発を招いた。PoG提案についても、トークン経済を健全化する改革なのか、それとも高値で売り抜けた後のシステム的な体裁繕いなのか、解釈が割れている。
加えて、2024年10月に「1億ドルの資金調達を完了」と発表されたものの、これが実際には数か月前に成立していた店頭取引であり、対象トークンは大型アンロックの直前に解放される設計だったとの指摘もある。一部からは、店外で売却し、それを好材料として包装し、アンロック前に個人投資家へ引き継がせる情報操作だとの批判が出ている。これらは当事者の説明と対立する見方を含むため断定はできないが、ガバナンス改革の評価を下す際に切り離せない背景だ。技術的な競争力とは別に、運営への信頼という軸が価格形成に影を落としている。
投資家が追うべきオンチェーン指標
ここまでの論点を実務に落とすと、TIAの評価で見るべきは価格チャートではなく、実需を映すオンチェーン指標だ。注視すべき主要シグナルは、ブロブ量、平均ブロブサイズ、支払われたブロブ手数料、そして同一ロールアップによる繰り返しの支出である。最後の「繰り返し支出」が要で、一過性のスポット利用ではなく、同じ顧客が複数の市場サイクルをまたいでCelestiaにデータを投稿し続けているか——この開発者の定着度が、ナラティブと実需を切り分ける。
資産運用の側からの評価も参考になる。BitwiseはPoGによってTIAが低希薄化かつ実需連動の利回りを持つ「よりクリーンで整合的な資産」になり、経済構造が防御的から成長志向へ転じうると論じている。逆に言えば、その前提はDA手数料収入の成長であり、それが新規発行を上回らない限り、債券的な性格は残る。Celestia・TIA・モジュラーブロックチェーン・データ可用性という文脈で資金流入の理由を問うなら、答えは常に同じ場所に戻ってくる。ロールアップがブロブスペースを買い続けるか、その実需が供給増とコモディティ化の二つの下押しを上回れるか。使用量と価格の乖離が解消に向かうのか、それとも構造として固定化するのか。判断材料はチャートの外側、ブロブとして投稿されるデータそのものにある。