2026年時点で、オンチェーンの永久先物(パーペチュアル)市場はひとつの取引所にほぼ集約されている。分散型パーペチュアル取引高の66〜73%をHyperliquidが握り、残りをAster、dYdX、GMX、Jupiter、Driftが奪い合う構図になった。2023年初頭にdYdXが約73%のシェアを持っていた市場が、わずか数年でほぼ完全に塗り替えられた。本記事では、なぜこの集約が起きたのか、HYPEというトークンがそのネットワーク価値をどう吸い上げているのか、そしてどこに構造的なリスクが残っているのかを、投資家の判断材料という観点から分解する。
なぜ独自チェーンを選んだのか:オーダーブックとブロックチェーンの相性問題
Hyperliquidの設計判断は、ひとつの技術的制約から逆算されている。中央集権取引所(CEX)はオーダーブック方式で動く。買い手が指値を出し、売り手が指値を出し、約定する。参加者が増えるほどスプレッドは縮む。NYSEからBinanceまで、流動性の深い市場はすべてこのモデルで運営されている。
問題は、オーダーブックが約定処理だけでなく、トレーダーが絶え間なく更新する気配値の追跡を要求する点にある。一回の約定の前に、気配は何十回も書き換えられる。既存のブロックチェーンはこの頻度に耐えられない。更新のたびにガス代が発生し、コンセンサスの確認を待つ必要があるため、汎用チェーン上でオーダーブックを動かすのはダイヤルアップ回線でNYSEを動かすようなものになる。
dYdXがCosmos SDKアプリチェーン上でオーダーブックのマッチングをオフチェーン(各バリデータのメモリ上)で処理し、約定結果のみをオンチェーンにコミットしているのは、この制約への現実的な妥協だ。GMXはそもそもオーダーブックを諦め、プール対オラクル価格のモデルを採用した。その結果として価格インパクトが発生し、決済も遅い。
Hyperliquidは別の答えを出した。取引専用に最適化した独自Layer 1を構築し、オーダーブック、マッチングエンジン、清算のすべてをステート内で動かす。コンセンサスはHyperBFTと呼ばれるパイプライン化されたHotStuff系の方式で、ブロックを約0.2秒でファイナライズする。すべての気配、約定、清算がオンチェーンで検証可能で、信頼を預けるべきオフチェーンのシーケンサーが存在しない。この「執行品質とオンチェーン透明性の両立」が、シェア集約の技術的な根拠になっている。
11人・VC資金ゼロという運営構造が意味すること
Hyperliquidを投資対象として見るとき、技術と同じくらい運営構造が判断材料になる。創業者のJeff Yanは、ハーバード卒の元クオンツトレーダーで、Hudson River Tradingを経てプエルトリコでChameleon Tradingという暗号資産マーケットメイク会社を立ち上げた人物だ。Hyperliquidはこのトレーディング事業の利益で自己資金化されており、外部VCからの資金調達を一度も受けていない。チームは約11人、マーケティング部門を持たない。
2024年初頭、Yanはプロジェクトを10億ドルと評価したVCのオファーを断った。理由として彼が挙げているのは中立性で、インサイダーに特権的な配分を持たせたプラットフォームは「誰もがその上に構築できる中立な基盤」にはなり得ない、という論理だ。トークン供給の大部分(約94,000ユーザーへのエアドロップ)をユーザーに配布したのも同じ思想に基づく。
ただし、この「VC不在」を額面どおり受け取るのは危うい。YanがVCを断れたのは理想主義だけでなく、Chameleon Tradingがすでに黒字で、毎月の運営費を個人資産で賄えたからだ。さらに、流通市場ではParadigmやa16zといった大手VCがHYPEのポジションを取っているとも報じられている。つまり「インサイダー配分が存在しない」ことと「VCがHYPEを保有していない」ことは別の話であり、投資家が見るべきは前者(発行時の配分の公平性)であって、後者ではない。
運営の小ささは、利点であると同時に集中リスクでもある。年間ランレートが6.76億〜8.43億ドルと推定される事業を11人で回している事実は、効率の高さを示すと同時に、キーパーソン依存と意思決定の中央集権という後述のリスクに直結している。
パーペチュアルという商品設計:期限なき先物を支える清算と資金調達
Hyperliquidの主力商品はパーペチュアル(無期限先物)だ。通常の先物には決済期限があり、期限が来ると裁定取引者が現物との価格差(ベーシス)を清算する。パーペチュアルには期限がない。この一点が、商品設計のすべてを規定している。
期限がないということは、放置すれば契約価格が現物価格から際限なく乖離していくということだ。それを防ぐために、期限の代わりに「資金調達率(ファンディングレート)」という連続的な力で価格を現物に引き戻す。Yan自身はパーペチュアルを「先物とオプションの統合」と表現している。期限がなく、レバレッジが組み込まれ、資産ごとにひとつの流動性の高い商品に価格発見が集約される構造だからだ。
レバレッジ面では、主要資産で最大40倍を提供する。dYdXの最大100倍やAsterの最大1001倍と比べると保守的で、ここはHyperliquidが意図的に取っているリスク管理上のスタンスでもある。証拠金は分離(特定ポジションに限定)とクロス(口座全体で共有)を選べる。清算トリガーはマーク価格と維持証拠金ルールを参照するため、急変相場ではマーク価格が直近約定値から乖離し、オーダーブックだけを見ているトレーダーが想定外の清算を食らうことがある。口座がマイナスに転じた場合の最終防衛線として自動デレバレッジ(ADL)があり、利益の出ている対向ポジションがランキングロジックで強制決済される。これは勝っているトレーダーにとっても無視できない設計上の制約だ。
資金調達率の計算式と毎時決済が生む競合との差
資金調達率はHyperliquidのパーペチュアル設計の心臓部であり、ここに競合との明確な差がある。計算式は次の構造を取る。
資金調達率(F) = 平均プレミアム指数(P) + clamp(金利 − P, −0.0005, 0.0005)
二つの構成要素の意味を分けて見る必要がある。金利成分はCEXとの整合性のために8時間あたり0.01%(毎時0.00125%、年率11.6%でショート側に支払われる)に固定されている。これはUSDを借りるコストと現物暗号資産を借りるコストの差を表す。この固定成分が存在するため、モデルには小さな構造的プラスバイアスが組み込まれており、資金調達率が歴史的にプラスに偏ってきた。市場が基本的にロングに傾きやすいという投資家心理の反映でもある。
プレミアム成分は、契約価格がオラクル価格からどれだけ離れたかを測る。契約価格がオラクルより高ければレートはプラスになりロングがショートに払い、低ければマイナスになりショートがロングに払う。プレミアムは5秒ごとにサンプリングされ、1時間にわたって平均される。オラクル価格は各バリデータがCEX現物価格の加重中央値(流動性に応じた重み付け)として計算しており、単一の気配値ではなくインパクト価格(一定の名目サイズを約定させたときの平均執行価格)を使うことで、板の厚みを反映した現実的な価格を採用している。
競合との決定的な差は決済頻度にある。BinanceやBybitが00:00、08:00、16:00 UTCの1日3回しか決済しないのに対し、Hyperliquidは8時間ウィンドウで計算したレートの8分の1を毎時決済する。これが実務上で効いてくる。CEXでは決済時刻をまたぐと丸8時間分のファンディングを負担するが、Hyperliquidでは早期にポジションを閉じても最悪で現在の1時間分しか取り逃さない。資金調達率を収穫する裁定勢(キャッシュ&キャリー)にとっては、8時間換算で0.01%(約11% APR)を超えるレートが目安になる。主要資産の通常時のレンジは8時間あたり−0.005%〜+0.02%で、+0.05%超や−0.03%未満は過熱とみなされる水準だ。極端な乖離時のサーキットブレーカーとして毎時4%の上限が設定されているが、実際にこの水準を見ることはほぼない。
HLP金庫:取引所の流動性を一般投資家に開放した仕組み
Hyperliquidの構造的な独自性は、流動性供給の主体を一般ユーザーに開放した点にある。HLP(Hyperliquidity Provider)は、プロトコルが運用するマーケットメイク用の金庫だ。ユーザーがUSDCを預け、プロトコルがその資本でネイティブのオーダーブック上に指値を出し、戦略の損益が預金者の保有シェアに応じて分配される。
通常のDeFi金庫が第三者デプロイのスマートコントラクトであるのに対し、HLPはL1の金融エンジンに直接組み込まれている。AMMのようにプール公式で価格を出すのではなく、板の上で直接マーケットメイクし、トレーダーの相手方になる。トレーダーがロングを出せば、HLPがショートを開く形で板が埋まる。収益源は三つに分かれる。両サイドに気配を出すマーケットメイク戦略のスプレッド、維持証拠金を割ったポジションを吸収する清算エンジン、そして不均衡な市場が生む資金調達率のハーベストだ。これらがNAVに積み上がり、毎秒マーク・トゥ・マーケットされる。
この設計が投資家心理に訴えるのは、従来CEXで選ばれたマーケットメーカーだけが占めていた「ハウス側」の立場を一般ユーザーが取れるからだ。USDCをHLPに預けるという行為は、本質的に単一資産の価格ではなく、取引所の取引高とボラティリティに賭けることを意味する。レバレッジをかけた大口の清算が発生するほどHLPは儲かる。実際、大口清算イベントでHLP金庫が24時間で約5.8%(年率換算110%超)を捕捉した事例もある。
ただしこれは「ショート・ボラティリティのマーケットメーカー」のポジションであり、損益は保証されない。預金者はあくまでトレーダーの相手方であり、市場が金庫に不利に動けば元本割れもあり得る。直近の預金から4日間のロックアップがあり、即時の退避はできない。HLPがなぜ「リスクのある利回り商品」なのかは、後述のJELLY事件が最も鮮明に示している。
HyperEVMエコシステム:乗り換えコストという堀の実体
パーペチュアル取引の執行品質だけでは、競合がより低いコストやより高いレバレッジを出した瞬間にシェアは流出しうる。Hyperliquidがそれに対して築いた堀が、HyperEVMの上に積み上がったDeFiレイヤーだ。
HyperEVMは2025年2月にメインネット稼働したEthereum互換の実行層で、Solidityコントラクトがプリコンパイルを通じてL1のオーダーブックと直接やり取りできる。BerachainやMonad、MegaETHといった同時期のapp-chain EVM群と決定的に違うのは、コントラクトが呼び出せるネイティブL1 CLOB(中央指値板)を持つ唯一の存在である点だ。だからHyperEVM上のTVLは、汎用AMMクローンではなく板を意識した戦略に偏る。
この上に、相互に絡み合った金融プリミティブが育っている。リキッドステーキングのKinetiqは、HYPEを預けてkHYPEを受け取る仕組みで、このkHYPEがHyperlendで担保になり、Pendleで利回りトークン化され、さらにパーペチュアルやオプションの証拠金にも使える。CDP型ステーブルコインのFelixはHYPEやLST担保にfeUSDを発行し、清算はオーダーブック経由でルーティングされる。Kinetiqの背後にあるRead PrecompilesやCoreWritersといった仕組みが、DEX・ステーキング・ガバナンスの各モジュールを橋渡しし、HyperCore(取引エンジン)とHyperEVM(スマートコントラクト層)の相互運用を成立させている。
投資家の観点でこのレイヤーが効くのは、乗り換えコストの蓄積だ。USDCがHyperlendで担保に使われ、HYPEがKinetiq経由でkHYPEになって複数プロトコルで運用され、取引履歴がエコシステムの分析ツールで追跡される状態になると、別のプラットフォームへ移る摩擦が大きくなる。このコンポーザビリティ層は、パーペチュアル専業のdYdXにもスマートコントラクト連携が限定的なGMXにも存在しない。シェアを守る力は執行速度だけでなく、ここにある。
HYPEトークンの設計:手数料が買い圧に変わる回路
HYPEは典型的なガバナンストークンとは設計思想が異なる。UNIや旧DYDXの多くがガバナンス権限を持ちながら手数料の捕捉とは切り離されていたのに対し、HYPEは取引手数料を直接トークン需要に変換する回路を組み込んでいる。
中核にあるのは買い戻し・焼却だ。Hyperliquidは純取引手数料のほぼ全額(報道により95〜99%とされる)を使ってHYPEを公開市場で買い戻し、Assistance Fundを通じて焼却または分配する。2026年5月までに買い戻しプログラムは11億ドル超の純プロトコル収益を消費し、4,100万HYPE超(10億ドル超相当)を流通から除去した。これはBitwiseのRyan Rasmussenが伝統的な自社株買いになぞらえている構造で、トークンを「投機資産」ではなく「キャッシュを生む事業のエクイティ」に近づける設計上の意図がある。年率換算の収益ランレートは6.76億〜8.43億ドルと推定される。
買い戻し以外のユーティリティも実需に紐づいている。バリデータはHYPEをステークしてコンセンサスに参加し、プロトコル収益を得る。委任するステーカーはネットワーク活動に応じて2〜4%の利回りを得るが、報酬は総ステーク量が増えるほど逆平方根カーブで逓減する。バリデータ参加の最低自己ステークは10,000 HYPE。HYPEはHyperEVMのガス支払いにも使われ、スマートコントラクト層の活動増加がそのままトークン需要に転化する。さらに後述するHIP-3では、新しいパーペチュアル市場を立ち上げるためにHYPEのステークが要求される。
供給面では、最大供給が約9.6167億HYPE。配分はFuture Emissions & Community Rewards 38.89%、Genesis Distribution 31.00%、Core Contributors 23.80%、Hyper Foundation 6.00%という内訳で、ジェネシス配分の大部分がエアドロップとしてユーザーに渡った。この供給スケジュールが価格論の片側を形作っている。
機関資本のオンチェーン化:ETF・国庫企業・USDC提携という外部需要
買い戻しがプロトコル内部から生まれる需要だとすれば、2026年に顕在化したのは外部=TradFiからの需要だ。これは内部の買い圧とは出所が異なり、両者が重なったことがHYPEの位置づけを変えた。
ETFの動きが最も直接的だ。Bitwiseは2026年5月15日にスポットHyperliquid ETF(NYSE: BHYP)をNYSEで取引開始した。手数料0.34%、最初の1ヶ月は最初の5億ドルまで0%という構成で、第三者ではなく自社のBitwise Onchain Solutionsを通じて保有HYPEをステークする初の製品でもある。同じ週に21Shares(THYP)も上場し、Grayscaleも申請中で、米国で複数発行体が競合する市場が立ち上がった。BHYPはステーキング報酬をNAVに反映させることで、単なるスポット価格追従ではなく利回りを含む構造を取っている。さらにBitwiseは管理手数料の10%をHYPEの購入・自社バランスシート保有に充てると表明しており、ETFの資産規模が拡大するほど継続的な買い圧が生まれる回路になっている。
国庫企業(DAT)も現れた。NASDAQ上場のHyperliquid Strategies(PURR)はBitcoinにおけるStrategy(旧MicroStrategy)に相当する位置づけで、HYPEを蓄積する。注目すべきは、多くのBitcoin・Ethereum国庫ビークルがNAVに対して大幅ディスカウントで取引される中、PURRがNAV近辺で取引されている点だ。ここには投資対象としての性質の違いが反映されている。Bitcoinの国庫が希少性へのレバレッジ賭けであるのに対し、HYPEの国庫はキャッシュフローを生む金融インフラへの請求権——ボラタイルなトークン建ての高配当性向の事業を保有することに近い。
加えて、CoinbaseがHyperliquidを公式USDC国庫デプロイヤーに指名し、安定通貨準備をHyperliquidエコシステム経由でルーティングする提携も成立した。米上場企業が同ネットワークを本番運用級のインフラと見なした信号として読まれている。一方で、既存取引所が規制当局にHyperliquidをより精査するよう働きかけているとの報道もあり、この外部需要の流入は規制の逆風と同時進行している。
中央集権リスクとJELLY事件:コードは法か、という未解決の問い
Hyperliquidの最大の論点は、「分散型」を掲げながら、いざという時に運営が市場価格を上書きできる構造が残っていることだ。これを白日の下に晒したのが2025年3月のJELLY事件である。
攻撃者は清算メカニズムの脆弱性を突いた。時価総額の小さいメモコインJELLYに対し、複数の新規アドレスで相殺するロングと大口のショートを同時に建て、その後JELLYの価格を複数取引所で1時間に400%超まで吊り上げた。Hyperliquidの継承ルールにより、水面下に沈んだショートポジションをHLP金庫が引き継ぎ、損失が拡大した。損失が1,200万ドルに達した時点で、バリデータが迅速にJELLYを上場廃止し、攻撃者のショート価格(0.0095ドル)で全ポジションを清算して損失を回避した。
問題はその過程で露呈した中央集権度だ。バリデータのクォーラムが約2分で合意に達したという速さは、ネットワークが主張するほど分散していないことを示した。Hyperliquidがステークされたhypeトークンの81%を支配しており、バリデータが当時16という少数だった事実と合わせて、市場は強い懸念を表明した。Bitget CEOのGracy Chenは事件の扱いを「未熟で非倫理的でプロ意識を欠いており、FTX 2.0になりかねない」と批判した。これは2022年のMango Markets事件(オラクル価格操作)と構造的に似ており、薄い流動性トークンでのレバレッジ取引を、リスクファンドへの影響を適切に勘定せずに許可した「価格付けされていないvegaリスク」の帰結でもある。
資本の反応は明確だった。HLP金庫のTVLは事件前後の1ヶ月で5.4億ドルから1.5億ドルへ激減した。これはHLPが「リスクのある利回り商品」であることを、預金者が身をもって理解した瞬間だった。
事件後、Hyperliquidは資産上場廃止の完全オンチェーン検証を導入し、バリデータのステーククォーラムがオフチェーン調整なしに自律的に資産除去をトリガーできるようにした。バリデータ数も段階的に拡大している。ただし、81%のステーク支配という根本構造が解消されたわけではなく、「最後の砦で運営が介入できる」という設計上の事実は残っている。
供給過剰と高いFDV:価格論のもう一方の側
買い戻し・焼却が供給を減らす力だとすれば、それに対抗する力がトークンのアンロックだ。価格の方向性は、この二つの綱引きで決まる。
コアコントリビューター配分からは、2026年初頭時点で毎月約992万HYPEがアンロックされている。当時の価格水準では各月次アンロックが約4億ドル相当の潜在的売り圧力に相当する。次回のCore Contributors向けアンロックは2026年7月6日に予定されている。買い戻しによる供給減とアンロックによる供給増のどちらが上回るかが、価格を語るうえで最も検証可能な論点になる。
バリュエーション面では、流通時価総額に対してFDV(完全希薄化評価額)が大きい。FDV/流通時価総額比率が約4倍という構造は、現在の流通ベースの時価総額が示すよりも、完全希薄化後の姿が大幅に割高であることを意味する。OI(建玉)が薄いTVLに対して極めて大きいというレバレッジ対流動性の比率も、ストレス時の脆弱性を定量的に示している。これらは買い戻しの強さという強気材料と必ず併せて見るべき数字だ。
なお本記事に登場する価格・TVL・OI・シェアの各数値は、データ提供元によって定義も実数も大きく異なる。市場シェアは、インセンティブ駆動やウォッシュトレード疑いの取引高をどう扱うかで提供元間で差が出る。投資判断の際はDefiLlamaやCoinglass等で執筆時点の最新値を各自確認する前提で読んでほしい。
パーペチュアルから総合金融インフラへ:HIP群とRWAの展開
Hyperliquidの事業範囲は、パーペチュアル単体から広がっている。HIP-1はネイティブトークン標準とオンチェーン現物オーダーブックを導入し、HIP-2が現物資産の自動流動性を加えた。つまり同プラットフォームは永久先物だけでなく、現物取引、借入、貸出、そして前述のHyperEVMを含む総合的な取引環境になっている。
市場創出の分散化を進めたのがHIP-3だ。これはHYPEをステークすれば誰でも新しいパーペチュアル市場を立ち上げられる枠組みで、上場プロセスそのものを開放した。2026年4月にはHIP-4でバイナリーオプションが加わり、取引頻度と手数料生成の経路が増えた。この方向性のもとで、すでにトークン化された金のgold perpsが存在し、開発者がNvidiaやGoogleといった大企業の株価に連動するリスティングを独立してデプロイしている。Kinetiqは最大25倍レバレッジで米大型株(US500)や長期米国債(USBOND)を24時間取引できるMarketsを立ち上げた。
ここに価格発見の場としての意味が加わる。2026年2月、日曜朝に地政学的緊張が高まり伝統的市場が閉じていたとき、価格発見のためにHyperliquidに流れが向かったとBitwiseは指摘している。コモディティ、指数、為替、株式といった非暗号資産がパーミッションレスにデプロイされていく流れは、Hyperliquidの取扱市場(TAM)を暗号資産の枠の外へ広げる動きとして読める。Yan自身はHyperliquidを「金融インフラのAWS」と位置づけ、最終的な射程をグローバル金融全体に置いている。
競合の現在地と、Hyperliquidが抱える現実的な脅威
dYdXは2023年初頭に約73%のシェアを持っていたが、2026年には3%未満に転落した。Cosmosアプリチェーン上で60以上の独立バリデータを擁する分散性の高さは残るものの、日次取引高は数億ドル規模まで縮小している。GMXは「リアルイールド」を広めたプール型の先駆者だが、価格インパクトと決済速度で板型に劣り、シェアは大きく後退した。
新規参入では性格の異なる venue が現れている。Asterは多チェーン対応(BNB Chain、Ethereum、Solana、Arbitrum)で株式perpや最大1001倍レバレッジを提供する「柔軟性と過激さ」の賭けだが、その分リスクも高い。EVEDEXのようなArbitrum Orbit L3上のガスレス・KYC不要の新興venueも登場しているが、流動性の深さは上位には遠く及ばない。
Hyperliquidにとっての現実的な脅威は、単一の競合による置き換えではない。執行速度・最低水準の手数料・ガスレス取引・HyperEVMのコンポーザビリティ・HIP-3が組み合わさった自己強化サイクル——取引高が増えるほど執行品質で競合が追いつけなくなり、それがさらに取引高を呼ぶ循環——は、段階的な改善では崩しにくい。むしろ起こりやすいのは、成長するパイの中でHyperliquidが最大の venue であり続けながら、シェアが徐々に断片化していくシナリオだ。Yan自身は、1年以内に少なくとも1つのCEXが自前のパーペチュアル画面を閉じてHyperliquidのインフラ上にフロントエンドを載せると予想している。これが実現すれば、競合関係そのものがインフラ提供者と利用者の関係へ組み替わることになる。
本記事は情報提供を目的とした分析であり、投資助言ではない。価格・TVL・市場シェア等の数値は2026年6月時点の調査に基づき、データ提供元により定義・実数が異なる。投資判断は各自の責任で、最新の一次情報を確認のうえ行ってほしい。