ステーブルコイン市場でUSDeが他と決定的に違うのは、裏付けに銀行預金も米国債も使わない点にある。担保は暗号資産の現物ロングと先物ショートを組み合わせたヘッジポジションそのものであり、この設計が高利回りと構造的リスクの両方を生んでいる。2025年10月のデペッグ、ドイツBaFinによるEU撤退、機関向けUSDtbの分離発行まで、USDeは合成ドルという新カテゴリの可能性と限界を同時に晒してきた。本記事では、USDeを単なる「3位のステーブルコイン」としてではなく、設計思想とそのトレードオフから読み解いていく。
結論から言うとUSDeは第4のステーブルコインである
USDeを既存の枠組みで分類しようとすると、どこにも収まらない。USDTやUSDCのような法定通貨担保型ではなく、DAIのような暗号資産過剰担保型(CDP型)でもなく、かつてのUSTのような純粋なアルゴリズム型でもない。
USDeの正体は、暗号資産のベーシス取引で1ドルを合成する仕組みだ。ユーザーが現物の暗号資産を預けると、Ethenaが同額のパーペチュアル先物ショートを建て、価格変動を相殺する。残るのはドル建ての価値とヘッジから生まれる利回りだけになる。この「銀行非依存・利回り還元・資本効率1対1」という三点を同時に満たす設計は、現時点で大型ステーブルコインの中でUSDeだけが持つ特徴だ。
狙っている市場も二層に分かれている。リテールとDeFi向けには、ステークして利回りを得るsUSDeによるオンチェーンのドル貯蓄。機関投資家向けには、BlackRockのトークン化ファンドを裏付けにしたUSDtbという別建ての規制対応ドル。同じEthenaがUSDeとUSDtbを意図的に切り離している点に、規制と利回りを両取りする戦略が表れている。
なぜ銀行を使わない合成ドルが生まれたのか
USDeの誕生背景を理解するには、2023年3月のシリコンバレー銀行(SVB)破綻を思い出す必要がある。このときUSDCは準備金の一部をSVBに置いていたため、一時0.87ドルまで値を崩した。「銀行に裏付けを預ける」という、最も安全とされてきたモデルそのものがカウンターパーティリスクを抱えていることが、市場に強く印象づけられた瞬間だった。
Ethena Labsの創業者Guy Youngが突いたのはこの構造的弱点だ。USDTやUSDCは準備金を銀行や米国債に置く以上、銀行破綻リスク、発行体による利回りの総取り、米国規制への従属という三つの問題から逃れられない。DAIは過剰担保で資本効率が悪く、しかも準備金の多くが結局USDCという矛盾を抱えていた。
USDeはこのいずれにも該当しない設計を選んだ。銀行も国債も使わず、暗号資産ネイティブな仕組みだけで価格を維持する。だからこそUSDeは「国際送金を解決する決済通貨」ではなく、DeFi内部の利回り需要とドル流動性需要を取りにいくプロダクトとして設計されている。この出自を押さえておかないと、後述する利回りやリスクの議論を読み違える。
価格維持の核心はデルタニュートラルにある
USDeのペッグメカニズムは、他のどのステーブルコインとも根本的に異なる。中核にあるのはデルタニュートラルと呼ばれるベーシス取引だ。
具体的な動きはこうなる。ユーザーがstETHなどのリキッドステーキングトークンやBTC、ステーブルコインを預けてUSDeをミントすると、Ethenaは同額分のETHまたはBTCのパーペチュアル先物をショートする。現物が10%上昇すれば担保価値は増えるがショートで同額を失い、現物が10%下落すれば担保は減るがショートで同額を得る。価格がどちらに動いても正味のドル価値はほぼ動かない。これが「価格中立」の意味だ。
ペッグはさらに二層で守られている。裏付け層ではこのデルタニュートラルが担保価値を1ドル付近に固定し、裁定層ではAuthorized Participantが1ドルで随時ミントとリデンプションを行うため、市場価格が乖離すれば裁定が働いて元に戻る。
ここで投資家が把握すべきなのは、USDeのペッグが「銀行に1ドルがある」という静的な信用ではなく、「ヘッジが機能し続ける」という動的な信用に依存している点だ。後述するファンディングレートの反転や取引所インフラの障害は、この動的な前提を揺るがす要因として直結してくる。
担保の中身とオフエクスチェンジ管理の意味
USDeの担保は、伝統的ステーブルコインとは構成からして違う。現物ロング側はstETHなどのリキッドステーキングトークン、BTC、ETH、それに流動性確保用のステーブルコインで構成される。注目すべきは、USDe本体には米国債やMMFが基本的に含まれないことだ。ここが差別化の核心であり、同時にリスクの所在でもある。
担保管理の方式も独特だ。裏付け資産は常にオフエクスチェンジ・セトルメントと呼ばれる機関グレードのカストディに保管され、担保が取引所に流れるのはファンディングや実現損益を決済するときだけに限られている。これによってFTX破綻のような取引所固有の破綻リスクから資産を隔離する設計になっている。短ポジション自体は取引所に置くが、担保本体は取引所の外にある、という構造を理解しておきたい。
一方で、緩衝材となるインシュアランスファンドの規模は約1500万ドルにとどまる。供給が数十億ドル規模であることを考えると、この緩衝力は決して厚くない。平時には問題にならないが、ファンディングが長期にマイナス化したときにどこまで持ちこたえられるかは、後述のリスク章で具体的に検討する。
担保の存在を誰がどう検証しているのか
銀行に1ドルを預けない以上、「裏付けが本当に存在し、ヘッジが維持されているか」を検証する仕組みそのものが、USDeでは独立した投資判断の軸になる。USDTの準備金が長年不透明と批判されてきたことと対比すると、この検証可能性の差は無視できない。
Ethenaは2025年4月、AWS Nitro Enclaves上にProof of Reserves(PoR)システムを構築して公開した。カストディアン、取引所、ブロックチェーンからデータを集め、改ざん不可能な環境で署名付きの証明を生成し、地理的に分散した独立監査人が週次で検証する仕組みだ。監査人にはHarris & Trotterという会計事務所に加え、Chaos Labs、LlamaRisk、Chainlinkが名を連ねる。月次のカストディアン報告よりも高頻度で、第三者による独立した検証が入る点が従来との違いになる。
Chaos LabsのEdge PoRオラクルは、準備金の総ドル価値、供給に対するカバー率、そして準備金がガバナンス承認済みかつデルタニュートラルであることまで独立して検証する。この検証データには副次的な効果もある。取引所がUSDeの検証済みPoRデータを価格インデックスに組み込めば、証拠金担保として使う際のヘアカットを減らせる余地が生まれる。検証インフラが整うほど、USDeがマージン担保として採用されやすくなるという循環だ。
ただし透明性とリスクは同居している。2026年4月、Ethenaは100%超の担保率をPoRで確認したと発表すると同時に、LayerZero OFTブリッジの停止延長も告知した。準備金は検証できても、クロスチェーン移送のインフラには別のリスクが残っているという実態を、この同時発表は示している。
USDeとsUSDeは別物として扱う必要がある
USDeを論じる際に投資家が混同しやすいのが、USDeとsUSDeの機能差だ。結論から言えば、USDeを保有しているだけでは利回りは付かない。
利回りを受け取るには、USDeをステークしてsUSDeに変える必要がある。sUSDeはUSDeの報酬蓄積版という位置づけで、ステークした保有者にだけ利回りが流れる設計になっている。この二層構造を理解していないと、「USDeを持っているのに利回りが入らない」という誤解につながる。
利回りの源泉は、パーペチュアル先物のショートが受け取るファンディングと、現物側のETHステーキング報酬だ。sUSDe保有者が得る利回りは、市場環境によって変動するが、おおむね年4.72%から10%のレンジで推移してきた。この水準が銀行預金や米ドル貯蓄を大きく上回ることが、後述する資金流入の直接的な動機になっている。
ファンディングレートが収益とリスクの両面を握る
USDeの収益モデルは、伝統的ステーブルコインの「国債利回りで稼ぐ」とは全く異なる構造をしている。発行体の利益源は、ショートポジションが受け取るファンディングレートと、現物のステーキング報酬の二つだ。
ファンディングレートが収益源になる背景には、パーペチュアル市場の構造がある。強気相場ではロングがショートを上回り、ロング側がショート側に資金を払う。Ethenaは構造的にショートを持つため、強気相場では一貫してファンディングを受け取る側に回る。2024年の平均ファンディングはBTCで約11%、ETHで約12.6%だった。
収益の実数も大きい。プロトコルは累計で5億ドルを超える収益を上げ、2025年通年では総収益が約2億3000万ドル、2025年12月単月でも5700万ドルを記録した。DeFiアプリの中でも最も稼ぐ部類に入る。
ただしこの構造は諸刃の剣だ。ファンディングがプラスの強気相場では利回りが上がり、利回りが上がるほど資金が流入して供給が増える。順循環で膨張する一方、弱気相場が長引いてファンディングがマイナス化すると、Ethenaが払う側に回って資本が流出する。USDeの供給量が相場と強く連動するのは、この収益構造に起因している。
ENAトークンとUSDeの成功は同じではない
ここまではステーブルコイン本体であるUSDeの分析だが、暗号資産投資家が実際に投資対象とするのは、多くの場合ガバナンストークンのENAだ。そしてUSDeが成功してもENAが上がるとは限らない。この乖離が、ENA投資を考える上での最大の論点になる。
従来、Ethenaの収益配分はUSDe保有者に80%、トレジャリーに20%という構成で、ENA保有者には直接の収益還元がなかった。プロトコルがいくら稼いでもENAは純粋なガバナンストークンにとどまり、収益とトークン価格が分離していた。
この構造を変えるのがfee switchだ。2026年第1四半期に起動したfee switchは、プロトコル収益の10〜20%をsENAステーカーに振り向ける。現行の収益率なら年4.5%から15%の利回りが見込まれる計算で、これによりENAはガバナンス専用トークンから収益を生む資産へと性格を変えることになる。fee switchが実際にどこまで価値還元として機能するかが、ENAの投資判断を左右する分岐点だ。
需給面では、アンロックスケジュールが重い。ENAの完全アンロックは2028年まで続き、配分はコアコントリビューターに30%、エコシステム開発に28%、投資家に25%、財団に15%、Binance Launchpoolに2%という構成になっている。いずれも4年ベスティングで、コアコントリビューターと投資家は1年で25%のクリフ、その後3年の月次リニア解放という条件だ。総供給の6割程度がすでにアンロックされているとはいえ、残る供給が段階的に市場へ出てくる希薄化圧力は、収益還元の効果を相殺しうる要因として見ておく必要がある。
2025年10月のデペッグが示した本当のリスク
USDeのリスクを語る上で避けて通れないのが、2025年10月のデペッグだ。ただしこの事例は、原因の切り分けを誤ると教訓を取り違える。
2025年10月10日、地政学ニュースを引き金に、レバレッジポジション190億ドル超が数時間で清算される史上最大規模のフラッシュクラッシュが発生した。このときUSDeはBinance上で一時0.62ドル前後まで値を崩した。数字だけ見れば4割近いデペッグだが、原因はEthenaの担保や償還システムの失敗ではなかった。問題はBinanceの価格フィード、つまりオラクルの誤作動と、薄い流動性にあった。
その証拠に、CurveやUniswapといったオンチェーンの市場では、同じ時間帯にUSDeはほぼ0.99ドルを維持していた。担保が崩れたのではなく、特定の取引所のインフラが一時的に壊れたというのが実態だ。とはいえ市場心理への影響は大きく、クラッシュ後には保有者の脱出によって24時間で約20億ドルが償還され、トータルで83億ドルが流出した。
この事例の本質は、構造的なファンディング反転リスクとは別系統にある。ファンディングが半年にわたってマイナス5%で推移すれば、TVLの2.5%を消耗し、100億ドル規模なら2億5000万ドルが失われ、約1500万ドルのインシュアランスファンドはおよそ1カ月で枯渇する計算になる。過去を振り返ると、2021年から2022年の暴落局面でもファンディングがマイナスだった日数は全体の約1割にとどまるが、長期の弱気相場が来た場合の耐性は未検証だ。
さらに見落とせないのがコンポーザビリティ伝播リスクだ。USDeはAaveやMorphoといったレンディング市場で担保として使われており、Aaveへのエクスポージャーが過大になれば、取り付け的なシナリオがDeFi全体に清算カスケードを引き起こしうる。Chaos Labsはこの点について警告を出している。
xUSDやdeUSDの崩壊とUSDeを同一視しない
2025年秋には、USDe以外の合成ステーブルコインが相次いで崩壊した。投資家がここで犯しやすい誤りは、これらとUSDeを同じカテゴリとして恐れることだ。
Stream FinanceのxUSDは、外部ファンドマネージャーが約9300万ドルの損失を出したことをきっかけに、1ドルから0.23ドルへと崩落した。この崩壊はElixirのdeUSDへ連鎖し、deUSDは48時間で0.02ドルまで暴落した。ElixirがdeUSD準備金の65%にあたる資金をStreamに貸し出し、Stream側がxUSDを担保にしていたという相互依存が、損失を一気に増幅させた。
これらの崩壊に共通するのは、戦略と準備金の不透明さだ。xUSDは「DeFiステーブルコインを装ったトークン化ヘッジファンド」と市場に見なされていた。資金がどこで何に運用されているのかが追跡不能で、外部運用者の損失が表面化した瞬間に信頼が崩れた。
USDeとの違いは、ここまで述べてきた検証インフラと担保構造にある。USDeのデペッグは数時間で回復し、担保自体は週次のPoRで100%超が確認されている。xUSDやdeUSDが完全崩壊したのに対し、USDeが回復したのは、原因が担保の毀損ではなく取引所インフラの一時障害だったからだ。合成ステーブルコインという言葉で一括りにせず、裏付けの透明性と相互依存の度合いで個別に評価する姿勢が、この一連の事例が投資家に残した教訓になる。
MiCAでEUを追われ米国GENIUSで活路を探る規制構図
USDeの規制環境は、地域によって正反対の様相を見せている。ヨーロッパでは事実上閉め出され、米国では制度の隙間を突いて足場を作った。
EUでは、ドイツのBaFinが2025年3月にUSDeの公募を禁止した。BaFinは合成ステーブルコインを電子マネートークン(EMT)ではなく資産参照型トークン(ART)として扱い、一部の発行体が期待していた定義上の抜け穴を塞いだ。さらに利回り型のsUSDeを無登録証券と見なし、最終的にEthenaは42日間の償還計画を経てEU市場から撤退した。注目すべきは、この巻き取り命令が保有者の所在地を問わず適用された点で、フランクフルト拠点から非EUユーザーへサービスすることすら認められなかった。
対照的に米国では、2025年に成立したGENIUS法が規制対象ステーブルコインの利回り提供を禁止した。これは一見逆風に見えて、USDeの非銀行ステータスにとっては追い風になった。規制対象のフィアット型が利回りを出せなくなる一方、合成型のUSDeは利回り禁止の直接適用を免れるからだ。Ethenaはこの隙間を突き、GENIUS準拠の別建てステーブルコインUSDtbを連邦認可暗号銀行Anchorage Digitalから発行させ、規制適合と利回りの両取りを図っている。
USDe本体はBVI法人が発行し、USDtbは米国のAnchorageが発行するという法人構造の使い分けも、この規制裁定戦略の一部だ。Ethenaはトークン化ドル資産を230億ドル以上ミントとリデンプションし、ダウンタイムゼロを実証したと主張しており、機関投資家向けにはこの実績とBlackRockやSecuritizeとの連携が信用補完として機能している。
日本の投資家が直面する税務とアクセスの現実
日本の投資家にとって、USDeはそもそも入手と税務の両面でハードルが高い。ここは英語圏の解説記事ではほとんど触れられない論点だ。
税務上、ステーブルコイン取引で得た利益は通常の暗号資産と同様に原則「雑所得」として総合課税の対象になる。給与所得などと合算され、利益が大きいほど税率が上がり、損益通算もできない。DeFiに預けて利息を得る場合も経済的利益として課税される。USDeは暗号資産担保型であるため、JPYCのような「電子決済手段」ではなく「暗号資産」として扱われる公算が大きく、課税区分もこちらに寄る。
特に注意したいのがsUSDeの利回りの課税タイミングだ。ステーキング報酬は、売却して円に換えたときではなく、報酬を受け取った瞬間に利益が発生したとみなされる。保有し続けていても、その年の所得としてカウントされる。sUSDeの利回りをそのまま再ステークしていても課税は発生するため、円建ての納税資金を別途確保しておかないと、含み益に対して現金で税金を払う事態になりかねない。
入手経路の面でも、日本ではUSDeは事実上未対応に近い。一方で規制対応のドル利回りは入手可能になりつつあり、SBI VC Tradeは2026年3月、日本初の規制対応USDCレンディングを開始した。導入キャンペーンでは年利10%、通常時でも約5%という条件だ。国内の投資家にとっては、規制対応のUSDC利回りと、規制外で高利回りだがアクセスしにくいUSDeのどちらを取るかという選択が現実的な論点になる。
市場での立ち位置と主要競合との構造的な差
USDeの絶対規模を冷静に見ておく必要がある。2026年時点で時価総額はおおむね45億ドルから63億ドルのレンジで推移し、DefiLlama基準で全ステーブルコイン中3位、合成ステーブルコインでは首位に立つ。
ただしUSDTが1800億ドル級、USDCが70〜75億ドル級であることを踏まえると、USDeは上位2強とは2桁違う規模にとどまる。むしろDAIの53億ドルやPYUSDの36億ドルと同じ「ニッチ上位」帯で競合している。フィアット型がステーブルコイン市場全体の約84%を占める構図の中で、USDeは「唯一の大型合成型」というポジションで差別化を図っているのが実態だ。
| 銘柄 | 担保 | 発行体 | 規制 | 利回り | 時価総額(2026) |
|---|---|---|---|---|---|
| USDT | 米国債・現金等 | Tether(オフショア) | GENIUS適応途上 | 還元なし | 1800億ドル級 |
| USDC | 現金・短期国債 | Circle(米) | 準拠志向 | 還元なし | 70〜75億ドル |
| DAI/USDS | 暗号資産過剰担保 | Sky(旧Maker) | 分散型 | 一部還元 | 53億ドル |
| USDe | 暗号資産+先物ヘッジ | Ethena(BVI) | MiCA非適合・EU撤退 | sUSDeで高利回り | 45〜63億ドル |
| PYUSD | 現金・国債 | Paxos for PayPal(米) | NYDFS規制 | 限定的 | 34〜36億ドル |
| RLUSD | 現金・国債 | Ripple(米) | NYDFS規制 | なし | 16億ドル |
この比較から見えてくるのは、USDeが流動性の深さと規制適合性ではフィアット型に劣る一方、利回りと銀行非依存という二点でのみ明確に優位に立つという構造だ。投資家がUSDeを選ぶ理由は、この二点に価値を見出すかどうかに集約される。
なぜリテールと機関の資金が流れ込むのか
USDeへの資金流入は、リテールと機関で動機が異なる。この違いを理解すると、供給量の増減を読みやすくなる。
リテールとDeFiユーザーの動機は、純粋に利回りだ。米国債を上回るAPYが出る局面では、利回りを探す資金がsUSDeに殺到する。DAIと違って過剰担保が不要で1対1でミントできる資本効率の良さも、DeFi内で担保として回す際の使い勝手につながっている。AaveやPendle、Morphoといったプロトコルとの統合が進み、DeFiの利回りエコシステムがUSDeを中心に再編されてきた経緯もここにある。
機関投資家の動機は、規制適合性だ。機関はUSDe本体ではなく、BlackRockのBUIDLを裏付けにGENIUS準拠で設計されたUSDtbを通じて、規制懸念なくオンチェーンのドルにアクセスする。Ethenaは機関向けにiUSDeやAnchorageのAtlas Collateral Managementによるオンチェーン信用インフラまで整え、リテールからTradFi機関へと軸足を広げている。
取引所の採用動機も独特だ。EthenaはHyperliquidのネイティブステーブルコインUSDHの発行を巡る入札で、USDH準備金から得る純収益の95%をHYPEの買い戻しなどでコミュニティへ還元すると提案した。収益の大半をパートナーに譲り渡す攻めの条件で取引所採用を取りにいく姿勢は、USDeの成長戦略を象徴している。
今後の展開と投資家が追うべき指標
Ethenaの次の一手は、自社L1チェーンConvergeへの移行に集約されつつある。Securitizeと共同で立ち上げたこのチェーンに、約60億ドル規模のエコシステム全体を移し、USDe、BUIDL裏付けのUSDtb、資産運用機関向けのiUSDeをプラットフォーム上で発行する計画が進んでいる。RWAとの統合を軸に、リテール向けの利回り商品から機関向けのインフラへと事業の重心を移そうとしている構図だ。
ただし決済市場への進出は構造的に難しい。価値が動かないことを前提とする決済通貨と、利回りを生むことを設計思想とするUSDeは、そもそも目指す方向が違う。決済領域はUSDCやPYUSD、RLUSDの戦場であり、USDeは利回り資産としての性格を保ったままDeFiと機関領域を深掘りしていく公算が大きい。
投資家がUSDeとENAを評価する上で継続的に追うべき指標を整理しておく。第一に供給量と時価総額の推移で、順循環構造ゆえ相場とファンディングに連動し、急減は流出のシグナルになる。第二にETHとBTCのパーペチュアルファンディングレートで、収益とペッグ安定の生命線であり、マイナス転落の頻度と期間が要注意だ。第三にsUSDeのAPYで、利回り競争力の圧縮は資金流出の先行指標になる。第四にインシュアランスファンドの対供給比率、第五に週次PoRで示される担保構成と担保比率、第六にAaveやMorpho、Pendleへのエクスポージャー集中度、そして第七にプロトコル累計収益とENAへの実際の価値還元の進捗だ。
USDeは、銀行に依存しないドルという理想と、取引所カウンターパーティとファンディングに依存するという代償を、同じ設計の中に抱えている。この二面性をどう評価するかが、合成ドルへの投資判断を分ける。