XRPは「決済の勝者」なのに価格が伸びない——投資家が見るべき需給とトークン需要の構造

リップル

XRPほど評価が割れる銘柄も珍しい。2025年8月のSEC訴訟決着、現物ETFの上場、300社超の金融機関提携と、強気材料はほぼ出尽くした。それでも価格は2025年7月の3.65ドルから2026年6月時点で1.2ドル台まで6割下落したまま戻していない。事業は明らかに前進しているのに、トークンの値が伴わない。この乖離こそがXRP投資の核心であり、本記事の出発点になる。

以下では、XRPがなぜこの位置にいるのか、市場構造とトークン需要の仕組み、競合との差、そしてオンチェーンの需給データから、投資家が判断材料にすべき論点を順に分解していく。

目次

銀行のノストロ口座を消すために設計された決済資産

XRPの存在理由を理解するには、まず国際送金の「眠った資金」の話から入る必要がある。

銀行が他国に送金するとき、相手国の銀行口座にあらかじめ資金を積んでおく。これがノストロ/ボストロ口座で、世界中の銀行が各国通貨を分散して塩漬けにしている。SWIFTはあくまでメッセージング規格であって、実際の資金はこの事前積立とコルレス銀行(中継銀行)の連鎖を通って動く。各段階で手数料が抜かれ、着金まで1〜5営業日かかり、どこで止まっているかも見えにくい。SWIFT送金は1件あたり10〜50ドルに為替スプレッドが乗り、個人送金市場では送金額の6〜8%が中間で消える。

XRPのODL(On-Demand Liquidity)は、この事前積立そのものを不要にする発想で作られている。送金事業者が米ドルをXRPに変換し、XRP Ledger上で着金側へ飛ばし、現地通貨に戻す。全工程が1分未満で完結し、各国に資金を寝かせる必要が消える。Rippleはこの仕組みで流動性コストを6〜7割削減できるとしている。汎用基盤を志向するイーサリアムやソラナと違い、XRP Ledgerは2012年のローンチ時点から金融機関の決済バックエンドを置き換えることだけを狙って設計された。ターゲットは個人ではなく、SBI RemitやNiumのような送金事業者を介した機関側のフローである。

マイニングもノード報酬もない——手数料が「焼却」される設計

XRPの経済設計は、ビットコインともイーサリアムとも根本的に異なる。

XRP Ledgerはマイニングを使わない。1,000億XRPの全量がローンチ時に一括発行され、新規発行は存在しない。コンセンサスはRPCA(Ripple Protocol Consensus Algorithm)と呼ばれ、バリデーターがUNL(Unique Node List)に基づいて投票し、80%が合意すればレジャーが確定する。ハッシュ計算の競争がないため、3〜5秒で取引が最終確定する。ビットコインのように複数ブロックの承認を待たないので、巻き戻りのリスクも構造上発生しない。

ここで投資家が押さえるべきは手数料の流れだ。XRPの取引手数料は1件あたり0.00001ドル相当ときわめて小さく、しかもそのXRPは誰の収益にもならずに焼却(バーン)される。供給から永久に消えるため、ごくわずかながらデフレ方向に働く。さらに特異なのは、バリデーターが取引承認の対価を一切受け取らない点である。マイニング報酬もステーキング報酬もなく、ネットワークを使いたい機関が自発的にノードを運営する前提で成り立っている。

この設計が意味するのは、「手数料収益でトークン価値を支える」モデルがXRPには当てはまらないということだ。チェーンの活動量が増えてもバリデーターに収益が落ちる構造ではないため、XRPの価値はあくまでブリッジとしての需要と、後述する供給管理に依存する。

自社ステーブルコインRLUSDがXRPの出番を奪う構図

XRP投資で最も議論が割れるのが、ここで扱うトークン需要の問題だ。

当初の効用仮説はシンプルだった。銀行がクロスボーダー決済でXRPを使えば、持続的な機関需要が生まれ、それが価格を支える——という筋書きである。ところが実際のODLでは、機関はXRPを買ってほぼ同時に売る。価格上昇に必要な「保有需要」が生まれにくい構造になっている。

問題をさらに複雑にしたのが、Ripple自身が投入したドル建てステーブルコインRLUSDだ。RLUSDは1対1でドル裏付けされ価格が動かないため、銀行はXRPのボラティリティを取る理由がなくなる。2026年5月にJPMorgan、Mastercard、Ondo、Rippleがトークン化米国債のクロスボーダー取引をXRP Ledger上で5秒未満で決済した実証では、レジャーが機関決済に耐えることは証明されたが、決済を担ったのはRLUSDで、XRPは0.00001ドル程度のネットワーク手数料しか担っていない。RLUSDはGENIUS Act(2025年成立の連邦ステーブルコイン法)に準拠した規制対応資産として、ゼロから15億ドル超の規模へ急拡大した。銀行がドルステーブルコインで決済できるなら、XRPを保有する動機は薄い。RLUSDが普及するほどXRPの出番が減る、という見方が成り立つ。

一方で、これに対する構造的な反論もある。Evernorthの分析は、発行型ステーブルコインはプロトコルネイティブなブリッジ資産を代替できないとする。トークン化された資産がXRP Ledger上に増えるほど、資産同士を交換するルーティング需要が生まれ、その中立的なハブとしてXRPが必要になるという論理だ。この見方では、XRPとRLUSDは競合ではなく補完関係——XRPがブリッジ、RLUSDが価値の安定単位——として並び立つ。Société Généraleがユーロ建てステーブルコインをXRPL上で発行し、Braza BankがブラジルレアルのBBRLを乗せ、Ondo Financeがトークン化米国債を持ち込むほど、レジャー上の交換需要は積み上がっていく。

XRPを買うか見送るかは、最終的にこの一点に集約される。RLUSDの成功がXRPの効用を食う構図なのか、両市場がともに拡大してXRP需要も伸びる構図なのか。事業者としてのRippleの成功と、トークン保有者のリターンが乖離しうるという認識が、判断の前提になる。

XLMとの差は技術ではなく「誰を向いているか」

決済特化チェーンの競合を見ると、XRPの立ち位置がより鮮明になる。

最も近い競合はStellar(XLM)だ。XLMはRippleの共同創業者だったJed McCalebが分岐して設立したもので、技術的な差はほとんどない。XRPの確定が3〜5秒、XLMが3〜7秒、手数料はどちらも一円未満で、速度もコストも体感差はない。違いは思想にある。XRPは一貫して銀行と機関(B2B)を向き、XLMは非営利のSDFが主導して個人と金融包摂を掲げる。同じ「速くて安い送金網」という発想を、正反対の市場に向けて仕立てた対照例といえる。

2026年に入って両者の役割分担が進んだ。XLMはDTCC(米国の証券決済の中核機関)との提携を獲得し、トークン化証券インフラの領域で前進した。Q1の決済量は55億ドルで前年同期比72%増、RWA(現実資産)価値は7.96億ドルから20億ドル超へ急伸している。XRPは商用クロスボーダー決済の取引量と機関の厚みで先行し、ODLは2024年に150億ドル超を処理して前年比32%増、回廊は70超で主要グローバル送金回廊の約8割をカバーする。DTCCが2025年5月に出した特許も、XRP Ledgerを大規模機関決済向け、Stellarを低コスト取引・法定通貨変換・ステーブルコイン向けと位置づけており、市場が両者を別の用途で見ていることがうかがえる。

SWIFTという本命の相手についても触れておく必要がある。SWIFTは2024年に「クロスボーダー決済の9割が1時間以内に着金している」と公表した。XRPがかつて訴求していた「速度」という差別化点は、相手が詰めてきたことで弱まっている。XRPの優位は速度そのものではなく、事前積立を解放するキャピタル効率の側に移っている。Visaやマスターカードもステーブルコイン決済の実証を拡大しており、決済の土俵は暗号資産対既存金融という単純な構図ではなくなりつつある。

オンチェーンが映す「事業の成功」と「価格」の乖離

ファンダメンタルズと価格のズレは、需給データを見ると輪郭がはっきりする。

大口保有の動きから見ていく。100万XRP以上を持つミリオネアウォレットは2026年第1四半期だけで約12〜13億トークンを積み増し、これは2023年以来の高水準だった。3月初旬の48時間で大口が13億XRPを買い増した局面もあり、3月10日には単日で7.38億ドル相当のXRPが取引所から流出した。取引所からの流出は、即時に売れる供給が減ることを意味する。Binanceのホエール流出ドミナンスは91.4%と2024年以来の高さに達した。1万XRP以上を保有する層(おおむね上位5%の個人と中小ファンド)は33万ウォレット超と過去最高を更新し、2024年6月から2026年5月まで増加が途切れていない。

ただし、流出が即座に強気を意味するわけではない点は分析者自身が留保している。取引所からの移動は売却以外の理由でも起きるため、これらは「大口が安値で拾っている」という解釈と整合的ではあっても、価格反転を確定させるものではない。

需給の重しも同時に存在する。Glassnodeのデータでは、循環供給の約6割にあたる368億XRPが市場価格より高い取得原価で保有されており、含み損を抱えた保有者は価格が損益分岐点に近づくたびに売り圧力に転じうる。供給面ではRipple社が約38〜40億XRPを保有し、2017年に設定したエスクローから毎月最大10億XRPが放出され、その多くがRippleのトレジャリーに入る。これは構造的な売り圧力として意識される。事業の前進が価格に直結しない背景には、こうした含み損保有者の上値抵抗とエスクロー放出という二つの重しがある。

XRP Ledgerが決済専用チェーンから脱皮しつつある

XRPの長期的なトークン需要仮説を考えるうえで、レジャー自体の機能拡張は外せない論点だ。

XRP Ledgerは長らく「単純すぎる」と見られてきた。複雑なスマートコントラクトを持たず、決済とDEX、AMM、エスクロー、NFTといった機能をプロトコルに直接組み込む設計だったためだ。これは弱点であると同時に、契約を個別に監査する必要がないという安全性の裏返しでもある。

その構図が2025年に変わった。6月30日、XRPL EVMサイドチェーンがメインネットで稼働し、Solidityで書かれたイーサリアム互換のスマートコントラクトがXRPエコシステムで動くようになった。このサイドチェーンはAxelarをブリッジに使い、XRP Ledger本体と50以上のチェーンを接続する。加えて本体側ではHooksと呼ばれる、アカウントに紐づく軽量なロジック(CやWebAssemblyで記述)が導入され、取引を条件で止めたり別の取引を発火させたりできるようになった。本体は計測された範囲のプログラマビリティ、サイドチェーンは完全な柔軟性という二段構えで、効率を保ったまま開発者層を広げる狙いだ。

この技術的背景が需要仮説とつながるのは、機関DeFiとRWAトークン化の文脈においてである。XRP Ledgerはこの1年でRWAのチェーン別ランキングで上位10位に入り、ステーブルコイン取引が初めて月間10億ドルを超えた。レジャー上で新しいトークン化資産が増えるたびに、それを他の資産と交換する必要が生まれ、その交換がXRPのブリッジ需要を生むという連鎖だ。「XRPLが使われること」と「XRPトークンが保有されること」は別物だが、ルーティング需要という回路を通せば前者が後者につながりうる。この回路が実際に太くなるかどうかが、長期保有の判断軸になる。

規制決着とETF——資金流入の経路が変わった

ここまでが効用と需給の話だとすれば、資金流入の経路は別の論点として整理しておきたい。

XRPの資金フローを根本から変えたのは、2025年8月のSEC訴訟決着である。Ripple側が5,000万ドルの和解金を支払い、双方が控訴を取り下げて5年に及ぶ係争が終わった。これによりXRPは、米国で公開取引される際に証券に該当しないことが確定し、アルトコインの中で最も法的な立ち位置が明確な銘柄の一つになった。2026年3月までにSECとCFTCはXRPをデジタルコモディティに分類し、ビットコインやイーサリアムと同じカテゴリに置いた。訴訟という最大の上値の蓋が外れたことで、機関が買えない理由が一つ消えた。

その受け皿が現物XRP ETFだ。2025年11月に上場し、2026年第1四半期までに累計14〜15億ドル超を集めた。Goldman Sachsが約1.54億ドルのポジションを開示し、運用資産1.53兆ドルのFranklin Templetonが1万3,000人のファイナンシャルアドバイザーにXRPへのアクセスを提供している。資金流入の経路が、かつての個人投機中心から、ブローカー口座経由の機関マネーへとシフトした点は、ボラティリティと流動性の両面で市場構造を変える要素になる。投資家がモニタリングすべきは、このETF流入がエスクロー放出による供給をどれだけ消費するか、というペースの綱引きである。

なお、米国の制度面ではCLARITY Act(暗号資産の市場構造を定める法案)の進捗が次の節目とされ、その通過がETF流入をさらに加速させるかが見られている。政権のスタンス次第で規制が再び動くリスクは残るため、法的決着を「終わった話」と扱うのは早い。

日本の投資家が直面する税務と購入環境

日本から投資する場合、米国の制度とは別に国内の税務を踏まえる必要がある。

日本では、XRPの売却益は総合課税の雑所得として扱われ、給与など他の所得と合算して累進課税される。年間の利益が20万円を超えれば確定申告が必要になる。FXや株式の譲渡益のような申告分離課税は適用されず、暗号資産の証拠金取引も租税特別措置法の規定により分離課税の対象から外れているため、総合課税となる。

見落とされやすいのが、暗号資産同士の交換でも課税される点だ。XRPをUSDTやビットコインに替えた時点で、交換した日のレートで円換算して損益が確定する。一度円に戻してから別の銘柄を買うのと同じ扱いになるため、レジャー上でブリッジとして頻繁に動かすほど課税イベントが積み上がる。業界団体は交換時課税の繰り延べを要望してきたが、2026年3月時点の税制改正大綱には盛り込まれていない。現行制度では交換のたびに課税対象になる前提で取引設計を考える必要がある。

国内の購入環境としては、SBIホールディングス傘下のSBI VCトレードなどが現物を扱い、年間損益報告書を提供している。SBIグループはRippleと深い資本関係を持ち、SBI Remitが実際にXRPをブリッジ資産として送金フローに使っているため、日本市場はXRPにとって固有の文脈を持つ地域でもある。

XRP投資の判断は「需要回路が太るか」に絞られる

XRPは、決済という土俵では実需と機関の厚みで先行している。ODLの取引量、回廊カバレッジ、ETF流入、規制の明確性、いずれも他のアルトコインが持たない強みだ。それでも価格が伴わないのは、レジャーが使われてもトークン自体が保有されない構造と、含み損保有者とエスクロー放出という需給の重しがあるからだ。

投資家が継続的に追うべき変数は限られている。RLUSDの時価総額がXRPの効用を食うのか補完するのか、ETF流入がエスクロー供給を消費するペース、XRPL上の交換ルーティング需要が実際に太るか、そしてCLARITY Actの進捗。これらがXRPのブリッジ需要回路を太らせる方向に動けば事業と価格の乖離は縮まりうるし、逆に動けば乖離は続く。XRPはファンダメンタルズが強いから上がる、という単純な銘柄ではない。事業の成功とトークンのリターンが別物でありうる、という前提に立てるかどうかが、この銘柄と向き合う出発点になる。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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