Stellar(XLM)はなぜ10年分のネットワーク成長を価格に反映できないのか

ステラルーメン

Stellarを語るとき、多くの記事が「速くて安い国際送金チェーン」という入口から入る。だが暗号資産投資家にとって、その説明はほとんど価値がない。本当に検討すべきは、MoneyGramやFranklin Templetonという実在の機関が本番環境で使い、累計42億ドル超の送金を処理しているネットワークが、なぜ2018年につけた高値から95%以上下落した水準で取引され続けているのか、という構造的な矛盾のほうだ。

この記事では、Stellarというプロジェクトの実需とXLMというトークンの価値が、設計上どこで切り離されているのかを軸に整理する。決済インフラとしての評価と、投資対象としての評価は、Stellarにおいては別の話になる。

目次

決済レールとしてのStellarが解いている問題の正体

国際送金が遅くて高い理由は、技術ではなく構造にある。SWIFTは資金そのものを動かしているわけではなく、銀行間で「いくらをどこへ送る」という指示を伝えるメッセージング網にすぎない。実際の資金移動は、各国の中継銀行(コルレス銀行)が事前に資金を積んだ口座(ノストロ口座)を使って肩代わりする。送金が複数の中継銀行を経由するたびに、滞留する資本のコストと手数料が上乗せされ、着金まで1〜5営業日かかる。電信送金1件あたり25〜50ドル、送金サービスでは送金額の3〜7%という手数料は、この多段構造から生まれている。タンザニアから200ドルを海外送金すると平均115ドル、つまり57%が手数料で消える回廊すら存在する。

Stellarが置き換えにいくのは、このうち「資金を実際に動かす層」だ。送金者がMoneyGramの店舗に現金を持ち込むと、MoneyGramがアンカーとしてStellar上にUSDCを発行する。受取側は最寄りのMoneyGramで現地通貨として引き出す。コルレス銀行の連鎖が、アンカーからアンカーへの1ホップに圧縮される。MoneyGramのStellar決済は5秒未満で完了し、2026年初頭時点で累計42億ドル超のUSDC送金量を処理している。フィリピンやケニアといった、従来の銀行コストが高く送金需要が安定している回廊で実績を積んでいるのは、置き換えの経済合理性が最も高い場所だからだ。

ここで理解すべきは、速さの源泉がブロック生成の速度ではなく中継の削減だという点だ。Stellarは合意形成にProof of WorkもProof of Stakeも使わず、Federated Byzantine Agreementに基づくStellar Consensus Protocol(SCP)で3〜5秒のファイナリティに到達する。確率的な確定ではなく決定論的なファイナリティであることが、決済用途で効いてくる。だが時間短縮の本質は、コルレス銀行という人手と手続きの連鎖を消したことにある。

XRPとの差は「誰が顧客か」で説明できる

StellarとXRPは出自を共有している。Jed McCalebが2012年にRippleを共同創業し、2014年に離脱してStellarを立ち上げた。だが顧客層が分岐したことで、両者の投資ストーリーは別物になっている。

XRPは銀行間決済を狙う。RippleNetには300超の金融機関が参加し、On-Demand Liquidity(ODL)はXRPを2つの法定通貨の間のブリッジ資産として実際に経由させる。2026年1月時点で累計決済量は950億ドルを超えた。一方Stellarは、MoneyGramの現金網を通じて個人と金融サービスをつなぐ「ラストワンマイル」に寄せている。XRPが銀行向けの幹線道路なら、Stellarは個人を金融サービスに接続する地方道路網だ、という比喩がよく使われるのは、両者が同じ送金市場の異なる層を取っているからだ。

数字で見ると、現時点の商用クロスボーダー決済の規模と機関の深さではXRPが先行している。XRPの時価総額はXLMの約24倍で、これはRippleの深い銀行関係と長い実績を反映している。一方Stellarは2026年第1四半期に55億ドルの決済を処理し、前年同期比72%増という成長率を示した。資産トークン化の領域ではStellar上のRWA価値が2025年末の7.96億ドルから2026年4月中旬には20億ドル超まで拡大している。つまり、規模ではXRP、成長率と金融包摂・RWAという別の土俵ではStellar、という棲み分けになっている。

XDCのような貿易金融特化チェーンも同じ送金市場の隣接領域にいるが、こちらはインボイスや貿易書類の決済というさらに別の層を取りにいっており、Stellarのリテール送金とは直接ぶつかりにくい。

トークンと実需が切り離されている構造

ここがStellar投資の核心になる。実需が伸びても、それがXLMの価値に直結するとは限らない設計になっている。

XLMの役割は、希少な通貨ペアの中間ブリッジ資産、流動性プールへの拠出、そしてスパム防止を兼ねたガス代の支払いだ。1操作あたりの手数料は約0.000001ドルで、XLM建ての取引が増えても価格への寄与は微小にとどまる。MoneyGramで現金がUSDCに変換されるたびにXLM需要が増える経路は、XLM建ての取引手数料と、流動性ハブとしてXLMを経由するPath Paymentの2つだが、後者には条件がつく。

問題は、ブリッジ資産としてUSDC自体が機能してしまう点にある。XRPのODLが「XRPを実際に握って通貨間を橋渡しする」のに対し、Stellarでは送金者と受取者の双方がUSDCのトラストラインを持っていれば、XLMを経由せずにUSDCのまま決済が完結する。Path PaymentがXLMを中間に使うのは、直接の流動性が薄い通貨ペアに限られる。だからUSDCの普及が進むほど、皮肉にもXLMが必須でなくなる方向に圧力がかかる。

この構造は、XRPが抱える問題と同型だ。RippleNetを使う300超の金融機関のうち、XRPで実際に決済しているのは約40%にすぎず、残りはRippleのメッセージング網だけを使ってXRPに一切触れない。2026年5月にJPMorgan、Mastercard、Ondo、Rippleがトークン化米国債の取引をXRP Ledger上で5秒未満に清算した実証では、決済はRippleのドルステーブルコインRLUSDを経由し、XRPは0.00001ドル程度のネットワーク手数料分しか担わなかった。銀行がトークンを握らずに台帳を使える限り、台帳の活動とトークン価格は乖離したままになる。StellarもXLMについて同じ綱引きの中にいる。

供給サイドが投機を吸収できる構造になっている

需要側がトークンと切り離されている一方で、供給側はXLMにとって追い風に働く設計に作り替えられてきた。

2019年11月、SDFはメキシコシティでのMeridianカンファレンスで、自らの保有の大半を焼却した。これによりXLMの総供給は50%強削減され、正確に500億XLMとなった。焼却アドレスには554億超のXLMが送られている。給付・エアドロップ用に確保していた680億XLMは180億へと73.5%削減され、運用ファンドも170億から120億へ縮小された。SDFは焼却の理由を、エアドロップの効果が逓減しており、財団がより少ないXLMで運営できるようになったためと説明している。

同時に、それまで存在した年1%のインフレ機構がバリデータ投票で恒久的に廃止された。新規発行が二度と起きなくなったことで、XLMは事実上の固定供給資産になった。これは高インフレ型のトークンとは異なる供給プロファイルだ。

ただし、希薄化の懸念が消えたわけではない。SDFは現在も約300億XLM、流通供給のおよそ60%にあたる量をエコシステム開発と助成のために保有している。この放出ペースが投資家心理を直接左右する。SDFの1億ドル規模の採用ファンドは160を超えるプロジェクトを支援しているが、大規模な放出があれば短期的な売り圧として市場に出てくる。供給スケジュールそのものは固定化されたが、SDFの裁量による分配が残された変数であり、オンチェーンでのトークン移動を追うことが投資判断の一部になる。

Sorobanという「決済専用チェーンからの脱皮」

Stellarを決済チェーンとしてだけ見ていると、2024年以降の戦略転換を見落とす。

2024年3月、スマートコントラクトプラットフォームSorobanがメインネットで稼働した。SDFはこれを10年の歴史で最大のアップグレードと位置づけ、1億ドルの採用ファンドを投じた。SorobanはEVM互換ではなくRustとWebAssemblyをベースにしており、状態肥大化への対処、きめ細かいリソース計測、アカウント抽象化を含む組込み認可機能を備える。設計思想として、コンプライアンスや規制要件をスマートコントラクト層に直接組み込めるようにしてあり、これは一般的なDeFiチェーンというより機関採用を狙った差別化だ。

この延長線上で、伝統的金融資産のトークン化に向けた動きが進んでいる。2026年にはDTCC(米国の証券決済機関)との統合テスト段階に入っており、株式や債券のトークン化のためにStellarのインフラが検証されている。Franklin Templetonがすでに2021年にトークン化MMFをStellar上に乗せ、公開ブロックチェーン上に記録された初の米国登録投信を作っている実績と合わせて考えると、Stellarの第二の投資テーゼは「決済」ではなく「規制対応型のRWAトークン化基盤」として立ち上がりつつある。決済の実需とは別の資金流入経路がここにある。

SCPが抱える運用リスクと、それが機関に好まれる理由

技術的信頼性の章を、長所だけで終わらせると投資判断を誤る。Stellarには実際にネットワークが停止した履歴がある。

2019年5月15日、Stellarネットワークは合意形成ができなくなり67分間停止した。原因はSCPの暗号的な破綻ではなく運用上のものだった。設定ミスやダウンしたバリデータ、新規ノードが早すぎる時期に過大な合意責任を負ったこと、脆弱なタイミングでのメンテナンスが重なった結果だとSDFは説明している。

ここで効いてくるのが、SCPの設計上のトレードオフだ。Stellarはライブネス(動き続けること)よりも一貫性とパーティション耐性を優先するよう作られている。合意に不確実性が生じたとき、SCPは不整合な状態で処理を続けるより停止を選ぶ。これは「チェーンは止まってはならない」という思想で動く多くのブロックチェーンとは逆の判断だ。SDFはこの性質を、金融機関は不整合なデータより停止を好むからこそStellarを選ぶ、と整理している。決済インフラとしては、二重支払いのリスクを負ってでも動き続けるより、止まって整合性を守るほうが合理的だという理屈であり、この一点はStellarの顧客層がリテールの裏で機関であることと表裏一体になっている。

「中央集権的すぎる」という批判をどう読むか

Stellarへの最大の批判は、ネットワークが中央集権的ではないかというものだ。投資・規制の両面に関わるため、この論点を避けて通ることはできない。

批判の根拠は明確だ。バリデータはSDFが選定し、最大のバリデータノードはSDF自身が運用してきた。2019年の停止が少数のSDFバリデータのダウンで起きたことも、この懸念を補強している。SCPでは合意形成に参加するバリデータ群のうち、最も投票権を持つ層がTier 1と呼ばれ、ネットワークの帰趨を実質的に握る。

これに対するSDF側の反論は、Tier 1という権力集中はSCPに固有のものではなく、Proof of Stakeでも同じことが起きる、というものだ。PoSでは投票権がステーク加重の擬名アドレスに蓄積し、その層に参入するには既存の保有者から数十億ドル分を買い取るしかない。一方SCPのTier 1はコミュニティが選び、公開・透明で、振る舞いが逸脱すればフォークも買い入れも不要で信頼を再割当できる、という主張だ。実際にFranklin TempletonのようなFortune 500企業からBlockdaemonのようなインフラ事業者までがTier 1に名を連ねている。

投資家として読むべきは、どちらの主張が正しいかではなく、Stellarが「分散性の純度」ではなく「機関が信頼できる運用主体の明示性」を選んだプロジェクトだという点だ。これは規制当局や金融機関にとっては参入しやすさになり、純粋な分散性を重視する層にとっては減点要素になる。評価が分かれるのは設計思想の違いに由来している。

規制の転換点が投資ストーリーを書き換えた

2026年のStellarを語るうえで、規制環境の変化は外せない。

2026年3月17日、SECとCFTCはXLMをデジタルコモディティに分類した。これによりXLMはBTC、ETH、XRPと同じ位置づけとなり、長年機関投資家の採用を遅らせてきた証券分類をめぐる不確実性が取り除かれた。カストディ事業者や資産運用会社が、証券性の懸念なしにStellar上で構築できるようになった意味は大きい。これに先立ち、CME Groupは2026年2月9日に規制されたXLM先物の取引を開始しており、機関投資家のエクスポージャー取得手段が広がっている。

ステーブルコイン側の規制も、Stellarの土台に直接影響する。2026年時点で、CBDCの導入は技術ではなく政治的理由で進みが遅く、プライバシーや市民的自由をめぐる未解決の論点を抱えている。その間に商用ステーブルコインが実際の経済フローに組み込まれ、短期のクロスボーダー決済実験を支配している。Stellarはこの「商用ステーブルコイン優位」の波に乗っており、USDCをネイティブ発行している点が効いている。2026年6月には、MoneyGramが自社のドル建てステーブルコインMGUSDをStellar上で立ち上げた。発行はStripe傘下のBridge、スマートコントラクトはM0、ウォレット基盤はFireblocksが担い、まず米国ユーザー向けに提供して6,000万顧客へのグローバル展開を計画している。

ただし、この発行体直系ステーブルコインの動きは両刃の剣でもある。MGUSDやRLUSDのような発行体自身のステーブルコインが将来自前のチェーンに移れば、中立的なレールとしてのStellarの価値は薄れる。GENIUS Actがどの形態のステーブルコインのスケールを許容するかが、Stellarが乗っている土台の安定性を左右する。

価格史が示す「ファンダとの乖離」

価格予想はしないが、史実とバリュエーションの位置関係は投資判断の前提として押さえる必要がある。

XLMは2018年1月4日に過去最高値0.9381ドルを記録した。だがこの3,000%超の上昇は、プロジェクト固有の材料ではなく市場全体の熱狂が駆動したものだった。その後XLMはこの高値から95%以上下落した水準で取引されており、過去の強気相場では他の大型アルトコインをアンダーパフォームしてきた経緯がある。決済ネットワークとしての実績が10年積み上がる一方で、トークン価格がそれを反映してこなかったという事実は、これまで述べてきたトークンと実需の乖離という構造と整合する。

機関採用の実績、規制リスクの後退、RWAトークン化での2位の地位といった材料が揃っても、それが直ちにXLM価格に転化しない理由は、ネットワークの価値とトークンの価値をつなぐ経路が細いことにある。インフラとトークン価値のあいだのギャップこそが、Stellarという投資対象の最大の特徴であり、評価が割れる原因になっている。

投資家が追うべき指標

Stellarを保有する、あるいは検討するうえで意味を持つのは、価格チャートよりもネットワークの実需を映す指標だ。決済ボリュームは投機ではなく実需の代理変数になる。2026年第1四半期の55億ドル、前年比72%増という数字がベースラインになり、これが鈍化するか加速するかが判断材料になる。Stellar上のUSDC供給量とRWAトークン化額は、レールとして実際に選ばれているかを示す。RWAは2026年4月中旬に20億ドル超まで伸びており、機関採用の先行指標として追う価値がある。

アクティブアカウント数はリテール採用の実態を映す。そして最も構造的に重要なのが、決済においてXLMを経由する取引の比率と、MGUSDのような発行体直系ステーブルコインがUSDCを置き換えていく度合いだ。ここがXLM需要の分岐点になる。手数料収益はXLM価格に寄与しないため、ここを成長指標として見るのは罠になる。SDFのトークン放出をオンチェーンで追うことも、供給圧の予測に直結する。

決済インフラとしてのStellarが伸びることと、XLMという資産が値上がりすることは、同じ方向を向くとは限らない。この二つを切り分けて見られるかどうかが、Stellarを投資対象として扱う際の分水嶺になる。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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