Avalanche(AVAX)徹底分析:汎用L1の敗北とRWAインフラへの賭け

avalanceのコイン

Avalancheを2026年時点で評価するとき、最初に直面するのは数字の食い違いだ。価格予想系の記事は「TVL $2.1B」「3B超」と書くが、DefiLlamaの実測値は$469M前後(6月時点)で推移している。この桁の違いは集計定義(ブリッジTVL込み、RWA込み、過去ピーク値の流用)に由来するが、同時にAvalancheという銘柄の核心も突いている。つまり、ナラティブが実績を大きく先行している。本稿はこの乖離を出発点に、Avalancheが今どこで戦っているのかを構造から解きほぐす。

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Avalancheが「Ethereumキラー」を降りた理由

2020年から2022年にかけてのAvalancheは、典型的な「速くて安いL1」だった。EthereumがPoWで詰まり、ガス代が高騰し、確定に数分かかっていた時期に、EVM互換で1〜2秒のファイナリティを持つチェーンとして売り込まれた。2021年のインセンティブ施策Avalanche Rush(約1.8億ドル相当)でTVLは一時$10Bを超え、AVAXは$144まで上昇した。

問題は、この「汎用高速L1」という土俵が極端に混み合ったことだ。BSC、Solana、Fantom、Polygonが同じ訴求で並び立ち、その後はEthereumのL2群(Arbitrum、Base、Optimism)が流動性と開発者を吸収していった。リテールの投機マネーはSolanaのミーム経済とBaseのオンチェーン文化に流れ、AvalancheのDeFi TVLは現在$469M程度まで縮小している。同じ時期のSolana、Base、Hyperliquidと比べると、汎用DeFiチェーンとしてのAvalancheは明確に劣後している。

ここで効いてくるのが、Avalancheの設計思想そのものだ。同チェーンは初めから「単一チェーンを速くする」のではなく「チェーンを増やして水平にスケールする」構造で作られていた。C-Chain(EVM互換のスマートコントラクト層)、X-Chain(資産発行・取引)、P-Chain(バリデータ管理とサブネット作成)の3チェーン構成に加え、その上に任意数の独立チェーン(旧Subnet、現Avalanche L1)を載せられる。各L1は独自のVM、独自のガストークン、独自のバリデータ要件、独自の権限設計を持てる。

汎用L1としては負けたが、この「主権チェーンを安く量産できる」構造が、結果的に別の市場で武器になった。それが規制対応のRWA(実物資産トークン化)インフラという領域だ。

Snowコンセンサスという独自路線が生む差

Avalancheのコンセンサスは、SolanaのPoH+Tower BFTでも、Sui/AptosのNarwhal-Bullshark系DAG-BFTでもない。Slush→Snowflake→Snowball→Avalanche/Snowmanと積み上げられたSnowファミリーで、ベースはPoSだが合意形成の仕組みが根本的に違う。

各ノードはネットワーク全体に問い合わせるのではなく、ランダムに少数の他ノードを繰り返しサンプリングし、多数派に自分の選好を寄せていく。これを複数ラウンド繰り返し、一定の信頼閾値(βパラメータで規定される連続ラウンド数)を超えた時点で確定する。全ノードに合意を取らないため通信量がO(kn log n)に抑えられ、バリデータ数が増えてもファイナリティが劣化しにくい。リーダーが存在しないため、SolanaのようなリーダーノードへのMEV集中や単一障害点が構造的に起きにくい。

この設計が、企業が多数のL1を立てる構想と噛み合う。バリデータ集合が増えても性能が保たれるという性質は、汎用チェーンとしての訴求よりも、「機関が自前のチェーンを多数並べる」ユースケースで意味を持つ。

ただし学術的には、Snowコンセンサスの安全性は確率的であり、決定論的BFTより理論保証が弱いという指摘がある(arXiv 1904.09839ほか)。実運用面ではバリデータ集中の問題もあり、上位の少数者が相当割合のステークを握っているとの見方が継続している。スラッシング(過失バリデータの元本没収)を採用していないため参加障壁は低いが、裏返せばペナルティ設計が緩い。投資家がネットワークの堅牢性を評価する際、この確率的安全性とバリデータ分散の実態は割り引いて見る必要がある。

外部ブリッジを排した相互運用の設計思想

Avalancheの「ブロックチェーンのインターネット」という構想は、L1同士をどうつなぐかという一点にかかっている。ここで使われるのがICM(Interchain Messaging、別名Teleporter)と、その土台であるAWM(Avalanche Warp Messaging)だ。

仕組みはこうだ。送信元チェーンのバリデータ集合がメッセージに署名し、アグリゲータが宛先チェーンの必要ステーク閾値を満たす分の署名を集約する。検証にはP-Chainが保持する各ネットワークのバリデータ集合(BanffアップグレードでBLS公開鍵が統合済み)を参照する。中央リレーや第三者ブリッジを介さず、L1間で直接メッセージとトークンを動かせる。トークン移転にはICM上に構築されたICTT(Interchain Token Transfer)という既製ソリューションがあり、Token HomeとToken Remoteの間でロック・ミント・バーンを処理する。

この設計が効いてくるのは、クロスチェーンブリッジが業界最大のハッキング温床だったという文脈においてだ。外部ブリッジを排して攻撃対象領域を縮小するという発想は、リテールDeFiよりも、コンプライアンス要件を抱えた機関が複数チェーンをまたいで資産を動かす場面で評価される。前章のコンセンサス設計と同様、ICMもまた「機関の専用チェーン群を束ねる」という現在のポジショニングと整合している。

日本がAvalancheの実証実験場になっている

Avalancheの機関RWAテーゼが最も具体的に進んでいるのは、実は日本だ。これは日本の投資家にとって、海外メディアの抽象的な「機関採用」の話よりはるかに検証可能な材料になる。

中核にいるのがProgmatである。MUFG発で、現在は複数の邦銀・取引所・テック企業が共同保有するこの証券トークン基盤は、日本の累計トークン発行の約63%、セキュリティトークン市場の過半を握る。そのProgmatが、基盤をプライベート台帳のCordaから専用のAvalanche L1へ移行することを決め、2026年6月末の完了を予定している。移管対象は約439億円($2B超)の不動産・社債トークンだ。プライベートな閉じたコンソーシアムから、EVM互換のパブリックチェーンへ移ることで、グローバルな流動性に接続するというのが移行の論理だ。

さらに踏み込んだ動きが、トークン化日本国債(TJGB)とオンチェーンRepoの取り組みである。2026年5月、Progmat主導で「トークン化国債/オンチェーンRepoワーキンググループ」が発足した。対象は約1.6兆ドル規模の国債Repo市場で、参加者にBlackRock Japan、SMBC、MUFG、Mizuho、Daiwa証券が名を連ね、Ava Labsがインフラ側に入る。10月に報告書、年内に商用化を目指す設計だ。書面上は国債そのものではなく経済的権利をトークン化する形を取り、既存の決済インフラと税制への配慮を組み込んでいる。

周辺の布石も厚い。国内クレジットカード取扱高の約半分を処理するTISがAvalanche上でMulti-Token Platformを展開し、SMBCはAva Labsと24時間グローバル送金で協業している。海外勢主導のRWAが多い中で、日本では既存金融機関が自らの基幹システムをアップグレードする形でAvalancheを選んでいる点が特徴的だ。Avalancheの「規制対応RWAインフラ」という主張が本物かどうかを見極めるうえで、この日本での進捗は先行指標として機能する。

資金は流入しているのか、ナラティブが先行しているのか

ここで現実の数字に戻る。Avalancheへの資金流入を語るとき、機関RWAマネーの存在は確かに実体がある。ステーブルコイン時価総額は約$1.38Bあり、そのうちBlackRockのBUIDLが約32%を占める。RWA Active Mcapは約$535M。DeFi TVLの上位を見ても、Securitize、Aave、Centrifuge、OpenTradeといったRWA・レンディング系が並び、投機的DeFiよりも「価値の置き場所」としての利用に明確にシフトしている。2025年後半のTVL反発も、Octaneアップグレードによる低コスト化と機関マネー流入が主因だった。

一方で、ネットワークが経済的に自立しているかというと話は別だ。DefiLlamaの実測で、チェーン手数料は24時間でわずか$2,000台にとどまる。これは「安いから使われる」という訴求の裏返しであり、フィー収益の面ではEthereumやSolanaに桁違いで劣る。バリデータ報酬は手数料分配ではなく発行で賄われる設計(手数料は100%バーン)のため、活動が低迷する局面ではバーンが効かず、アンロックと報酬発行でネットではインフレ寄りに振れうる。

つまり資金流入の構造はこうだ。RWA・ステーブルの形で「置かれている」資本は積み上がっているが、それが手数料という形でネットワーク収益に変換されていない。投資家が見るべきは、置かれた資本が実際の決済・取引フローに乗って手数料を生み始めるかどうかだ。81前後あるとされるL1が「数」だけなのか「実活動」を伴うのかという問いも、同じ論点の別表現になる。

トークン需給とアクセス経路の変化

AVAXの需給を投資家目線で分解すると、構造的需要と継続的供給がせめぎ合っている。

需要側では、新しいL1を立てるバリデータがAVAXをステークし継続的なバリデーション手数料を払う設計が、エコシステム拡大に連動した需要を生む。ただしEtnaアップグレード以降、L1作成に必要だった2,000 AVAXの固定ステーク要件が撤廃され、少額の継続手数料モデルに変わったため、1チェーンあたりの初期ロック需要は以前より低下している。供給側では、総供給7.2億枚のうち約60%が既にアンロック済みで、ベスティングは2030年まで続く。次回アンロックは2026年8月でFoundation向け、2026年内には他のアンロックも控える。

エクスポージャーの取り方そのものも2026年に大きく変わった。VanEckが1月に米国初の現物AVAX ETF(VAVX、ステーキング報酬付き)を上場させたのに続き、Grayscaleが3月にGAVA、Bitwiseが4月にBAVAを投入した。後者2本はステーキングETFで、保有AVAXの相当部分を実際にステークして利回りを取りに行く。これらは流通供給を吸収しながら機関マネーをオンチェーンの利回りに接続する経路として機能している。日本居住者の場合、現物保有して自前でステークするのと、こうした海外上場ETF経由でエクスポージャーを取るのとでは、税務・カストディ・利回りの扱いが変わってくる点に留意がいる。

汎用性能ではなく機関RWA争奪で競合を見る

Avalancheを競合と比べるとき、二つの軸を混同しないことが評価の前提になる。

汎用L1としての技術比較では、SolanaがPoHによる速度とリテール経済で先行し、Ethereumは流動性とL2エコシステムで圧倒し、Sui/AptosはMoveによる新しい安全性モデルで差別化する。この軸でのAvalancheの優位は、EVM完全互換ゆえの移行コストの低さ(Solidityのまま移植でき、Solana/Sui/AptosのようにRustやMoveで書き直す必要がない)と、主権チェーンを量産できる構造に絞られる。

だが現在のAvalancheが本当に戦っているのは、機関RWAインフラという別の土俵だ。この市場ではEthereum(BUIDLの本拠でもある)、Polygon CDK、各種アプリチェーンが同じ顧客を奪い合っている。ここで注意すべきは、AvalancheのステーブルTVLの3割を占めるBUIDL自体がマルチチェーン展開で、Avalanche専属ではないという点だ。機関は特定チェーンに縛られることを嫌うため、Avalancheが「選ばれ続ける」保証はない。日本のProgmatのように基盤ごと移行する深いコミットメントと、複数チェーンに薄く展開する機関とでは、AVAX需要への寄与がまったく異なる。競合分析では、どちらのタイプの採用なのかを見分けることが要点になる。

投資家心理と評価のギャップ

AVAXの価格はDefiLlama基準で$6〜7台、2021年のATH($144.96)から9割以上下落した水準にある。一方でネットワークの機能面はEtna/Avalanche9000によるL1コスト削減、Octaneによるガス代圧縮、Graniteによる動的ブロックタイムとクロスチェーン改善と、技術的には積み上がっている。この「機能は強化されているのに価格は底圏」という乖離が、現在のAvalancheに対する投資家心理を二分している。

強気側の論理は明快だ。世界の債券・株式・private creditのトークン化が本格化すれば、Avalancheが規制対応インフラとして相応のシェアを取り、L1需要を通じてAVAXステーク需要が構造的に増える。BlackRock、Securitize、Progmatの採用はその布石だと読む。McKinseyのRWA市場見通しのような巨大な母数を参照すれば、捕捉率がわずかでも効いてくるという発想だ。

弱気側はフィー収益の欠如とアンロックの継続を突く。発行アナウンスは多いが、それが実利用と手数料に変換された証拠が乏しい。L1は数だけ増えて活動が薄い。確率的安全性やバリデータ集中といった設計上の留保もある。Ava Labsの開発体制と資金基盤(2019年のa16z等によるシード$6M、2021年の$230Mプライベートセール、2022年の評価額$5.25Bでの$350M調達)は厚いが、それは銘柄の割安・割高とは別問題だ。

この二つの見方の決着は、結局のところ検証可能な数字に帰着する。

投資家が追うべき検証ポイント

Avalancheはナラティブと実績の乖離が大きい銘柄なので、評価の軸は「期待を裏付ける実数が伴い始めるか」に置くのが合理的だ。

まずTVLは価格予想系の数字ではなくDefiLlamaの実測を見る。$469M前後からの趨勢と、RWA Active Mcap・ステーブル時価総額の積み上がり、そしてそのBUIDL依存度(約32%という集中)を併せて追う。次に最重要の遅行指標として、チェーン手数料と収益が日次$数千の水準から脱却するかを見る。これがネットワークの経済的自立の証拠になる。L1の数だけでなく、L1あたりのトランザクションとアクティブアドレスを見て「数」か「実活動」かを判別する。アクティブアドレスと日次トランザクションは時期で激しくブレるため、単日ではなく複数日の趨勢で評価する。

需給面では、ステーキング率とsAVAXの動向が流通供給の固定度と保有者の忍耐強さの代理指標になり、2026年内のアンロックスケジュールが売り圧として効く。そして日本のProgmat移行(6月末完了予定)とTJGB/Repoワーキンググループ(10月報告)の進捗は、発行アナウンスではなく実際の決済フローに乗ったかどうかで判断する。機関採用のニュースは、それが「専属の深いコミットメント」なのか「マルチチェーンの一つ」なのかで重みが変わる。

Avalancheへの投資判断は、結局この一点に集約される。置かれた資本が動き始め、手数料を生み、日本のような具体的な実証ケースが商用フローに転換するか。それを示す数字が出るまで、評価は保留と検証の往復になる。


記事内の数値は調査基準日(2026年6月17日)時点のDefiLlama/Messari/Nansen等のデータに基づきます。投資判断はご自身でご確認ください。本稿は分析であり投資助言ではありません。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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