Centrifuge(CFG)徹底分析:RWAトークン化の「レール」が機関資金を引き寄せる構造

Centrifugeを「RWA銘柄のひとつ」として括ると、この protocol が置かれている立ち位置を読み違える。Ondoがトークン化米国債という単一商品を磨き込み、MANTRAやPlumeがRWA専用のL1を自前で立ち上げる方向に賭けているのに対し、Centrifugeは既存のEVMチェーン(とSolana)の上に資産運用会社向けの「発行レール」だけを敷き、与信と運用そのものは外部パートナーに委ねている。チェーンを所有せず、プールも自社で運用しない。この分業の設計が、CFGトークンの価格チャートとプロトコルのTVLが桁違いに乖離している理由であり、同時に2025年以降に$10億規模の機関資金が流れ込んだ理由でもある。本稿では、なぜCentrifugeがこの構造を選んだのか、その技術的背景と資金フロー、そして投資家が直面する論点を、市場構造の側から分解する。

目次

なぜCentrifugeは自前のチェーンを捨ててEVMに寄生したのか

2017年にベルリンで創業した当初、CentrifugeはPolkadotのパラチェーンとして独自のSubstrateチェーン(Centrifuge Chain)を持っていた。請求書やサプライチェーン債権をトークン化するという発想は、共同創業者のMartin Quenselが運転資金プラットフォームTauliaで扱っていた現実の債権フローが出発点になっている。トレーダー出身ではなく決済インフラ出身という創業者の経歴が、この protocol の性格を決めている。

転機は2025年7月に完了したV3移行だった。旧来の構造では資産プールがCentrifuge Chain上に存在し、ブリッジ契約を通じてEthereumに状態を同期していた。だが機関投資家のリスク部門にとって、プールにアクセスするためだけにPolkadotパラチェーンを相手にするのは摩擦でしかない。V3はこの設計を反転させ、プール・トランシェトークン・投資ロジックをEVMチェーン上のSolidityコントラクトにネイティブで置いた。Centrifuge Chainはガバナンスとメタデータの調整役に後退した。

この判断の核心は、コールドスタート問題の回避にある。新しいRWA専用L1を立ち上げれば、流動性もDeFiのコンポーザビリティもゼロから作り直さなければならない。Centrifugeは機関資本とステーブルコイン流動性が既に存在するEthereum、Base、Arbitrumに乗ることで、その負担を回避した。トレードオフは明確で、チェーンレベルの経済(ガス代やシーケンサ収益)を取り込めない。MANTRAやPlumeがチェーン経済を握りに行くのとは逆の賭けであり、収益はプロトコル手数料とガバナンス価値に限定される。2026年時点でv3.1.0はEthereum、Base、Arbitrum、Avalanche、Plume、BSC、Optimism、HyperEVM、Monadの9チェーンに同一アドレスでデプロイされており、特定チェーンへの深掘りよりも、パートナーの投資家がいる場所に資産を届ける方針が見て取れる。

DROP/TINトランシェ:オンチェーンに移植されたストラクチャードクレジット

CentrifugeにAMMは存在しない。利回りの分配と損失の吸収を司るのは、シニア・ジュニアのトランシェ構造だ。各プールはDROP(シニア)とTIN(ジュニア)の2種類のトークンを発行する。DROPはキャッシュフローへの優先請求権を持ち、固定利回り目標が設定される。プールが年6%稼ぎ、シニアが4%に設定されていれば、DROP保有者がまず4%を確保する。TINは残余を総取りする代わりに、ローンのデフォルトや資産毀損が起きたときに最初に損失を被る。プールの収益が想定を上回ればTINが利益を享受し、下回ればDROPが守られる順序になっている。

この構造自体は、プライベートクレジットファンドやABS(資産担保証券)の世界では珍しくない。違いは2点に絞られる。ひとつはトランシェがオンチェーントークンであり、残高・資産構成・デフォルト率・NAVが継続的に公開されること。もうひとつは、DROPトークン自体が譲渡可能で、他のDeFiプロトコルの担保として再利用できる点だ。TradFiのストラクチャードクレジットには、この利回りの重ね合わせという発想がそもそも存在しない。

過小評価されがちなのが、TIN最低比率の自動制御だ。プールごとに通常5〜15%のTIN比率が設定され、ジュニアへの払い出しや損失によってこの比率が下限を割ると、バランスが回復するまで新規のシニア預入がスマートコントラクトによって自動停止される。ファーストロス資本が薄くなったプールに新たなシニア資金が入り続ける事態を、人手を介さず防ぐ仕組みになっている。

V3アーキテクチャの設計思想:コンプライアンスロジックをどこに置くか

トークン化インフラの設計上、すべての判断は「コンプライアンスロジックをトークンの内側に置くか、外側に置くか、ネットワーク層に置くか」という一点に帰着する。この選択がガス代、アップグレード性、クロスチェーン移植性、そして下流のDeFiコンポーザビリティを決定づける。

Centrifuge V3は、hub-and-spoke構造を採用している。各プールは単一のhubチェーンを「真実の源」として選び、会計・権限・シェア価格・クロスチェーンの制御をそこで一元管理する。一方、ユーザーが実際に預入や償還を行うのはspokeチェーン上のVaultだ。同一の資産プールを、契約を複製することなく複数チェーンに展開できる構造になっている。

Vaultの実装には複数のERC標準が使い分けられている。同期型の即時預入にはERC-4626、リクエストとクレーム(請求)を分離した非同期フローにはERC-7540、単一のシェアトークンで複数資産を扱うマルチアセットVaultにはERC-7575が用いられる。このうちERC-7540はCentrifugeがエコシステムパートナーとともに策定に関与した標準で、トークン化国債や信用ファンドのようにオフチェーンの決済サイクル(T+2など)を抱える資産が、同期型のVaultでは表現できないという課題に対応している。償還を申請してから、オフチェーン決済やオラクル更新を経て後のブロックで履行されるという2段階の流れが、現実の資産の決済タイミングとオンチェーンの動作を整合させる。コンプライアンス面では、ERC-1404でトークンレベルの譲渡制限を、ITransferHookで動的なコンプライアンスロジックの注入を実現している。コントラクトはimmutableかつオープンソースであり、隠れた変更を心配せずに上に構築できることが、機関統合の前提条件として効いている。

deRWAトークン:パーミッションド発行とパーミッションレス流通の橋渡し

トランシェ構造が発行側の話だとすれば、deRWAはその先の二次流通と担保利用を扱う別レイヤーだ。RWAをDeFiで使う際の最大の障害は、厳格なallowlistにある。すべてのプール参加者を個別にオンボーディングしなければならない設計では、資産がオープンなプールに入り込めない。Centrifugeの Graham Nelson が指摘するこの問題に対して、deRWAは準拠した一次発行を、より自由に譲渡可能な二次流通でラップするというアプローチを取る。

第1号資産はdeJAAA、すなわちJanus Henderson Anemoy AAA CLOファンドの自由譲渡版だ。配備先を見ると、Base上のDEXであるAerodrome(TVL$10億超)が流動性のアンカーとなり、レンディングではMorphoがdeJAAAを担保として受け入れる。保有者はRWAポジションを担保に流動性を引き出したり、レバレッジをかけたりしながら、institutional gradeの利回りエクスポージャーを維持できる。Coinbase DEX、OKX Wallet、Bitget Walletにも展開され、CEOのBhaji Illuminatiは合計2億ユーザーにリーチするプラットフォームへの接続が完了したと述べている。

S&P Dow Jones IndicesとJanus Hendersonが関わるdeSPXA(Anemoy S&P500指数ファンド)も登場した。24時間365日取引可能なオンチェーンの株式指数ファンドとして、Morphoで借入、Eulerでショート、Aerodromeやdefinitiveで取引、Multipliで利回り獲得に組み込まれる。トークン化された株式指数が、複数のDeFiプロトコルにまたがって担保・ヘッジ・取引の対象になっている点が、単純なデジタル化との分かれ目になっている。

資金はどこから来ているのか:MakerDAOからGrove、そしてEthenaへ

Centrifugeの資金フローを追うと、需要が特定の数プロトコルに集中している構造が見えてくる。2020年から2024年にかけて、CentrifugeはMakerDAOのRWA担保としてDAIを裏付け、ピーク時には$2億超のトークン化クレジットがDAIを支えた。当時、CentrifugeはDAIエコシステムにとって最大のRWA担保提供者だった。

MakerDAOがSkyへ再編されたあとも、この関係は消えていない。Steakhouse Financialがインキュベートし、Skyが支援するGroveという経路を通じて、JAAAに$10億がシードされた。つまりSky系資本への依存は終わったのではなく、Groveという新しいパイプに付け替えられて拡大した。Groveのチームは、Deloitte、BlockTower Capital、Hildene Capital、Citibankといった経歴を持つTradFiとDeFi双方の人材で構成されている。

2026年6月には、もう一つの大きな経路が開いた。シンセティックドルUSDeを発行するEthenaが、RFP(提案依頼)プロセスを経てCentrifugeを戦略的トークン化パートナーに選定し、JAAAをSolana上に$2億発行した。これはUSDeに初めて加わったRWA担保スリーブであり、Ethenaのリスク委員会が承認したキャップは約$3.1億で、5割超の拡大余地を残している。同時に、$4,800億のAUMを持つJanus Hendersonは、EthenaのガバナンストークンENAへ出資し、自社のトレジャリー資金管理にUSDeを採用し、2026年後半にはUSDe連動の規制対応ETP/ETFの共同開発を探る方針を示した。資産そのものが担保として使われ、運用会社が protocol の持分まで取得する。資産とレールの境界が溶け始めている。

この構造は両義的だ。「機関信用のオンチェーン担保化」が実証段階に入った証拠である一方、需要がSky系(Grove)とEthena系という2大シンセティックドル発行体に集中しているとも読める。CentrifugeのdeRWAの主要な担保受け入れ先であるMorphoが、a16z crypto、Paradigm、RibbitからApollo、Circle、VanEckまでを巻き込んで$1.75億を調達した動きも、Centrifugeの二次流通の厚みに直結する変数として見ておく必要がある。

RWA市場の2レーン分岐とCentrifugeの賭け

個別銘柄の優劣を比べる前に、RWA市場そのものが構造的に2つのレーンに割れている事実を押さえたい。DWF Labsが2026年4月に開いたラウンドテーブル(Centrifuge、Falcon Finance、xStocksが参加)は、市場が「所有権優先のパーミッションドなレール」と「コンポーザビリティ優先の設計(準拠発行と二次流通ユーティリティの両立)」に分岐していると結論づけた。

数字がこの分岐を裏付けている。DefiLlamaのデータでは、オンチェーンRWAの時価総額は約$285.6億に達するが、サードパーティのDeFiプロトコルに実際に預け入れられたDeFiアクティブTVLは$24.7億にとどまる。その大半はパーミッションド陣営に属する。BlackRockのBUIDLはその典型で、コンプライアンス構造そのものがプロダクトになっており、Securitizeがallowlistを管理し、アクセスは最低$500万の資産を持つ適格購入者に限られる。BUIDLの契約はallowlistされたアドレスとしか相互作用しないため、準拠したラッパーを挟まないかぎりAaveやUniswapへの直接預入はできない。BlackRockは2026年2月にBUIDLの一部をUniswapに載せたが、それでもallowlistの制約下にある。IOSCOは2025年11月に、トークン化MMFが約束された二次流通の流動性をまだ実現していないと結論づけた。

カテゴリ別に利用率を見ると、債券・MMFはオンチェーン$166億に対しDeFi利用$9.2億、金・コモディティは$57億に対し$1.836億、株式は$27億に対し$0.7827億と、いずれもDeFi利用率は低い。これに対してプライベートクレジットは$32.26億のオンチェーンに対し$12.57億がDeFiアクティブで、利用率39%と全カテゴリで突出している。この差は、MapleやCentrifugeがレンディングインストゥルメントとして設計の最初から作られていることに由来する。Centrifugeは明確にコンポーザビリティ優先レーンに賭けており、deRWAはその賭けを実装に落とし込んだものだと位置づけられる。

競合との距離:OndoやMANTRAと同じ土俵にいない理由

RWA銘柄の比較でCentrifugeと並べられるのは、Ondo、Maple、MANTRA、Plumeあたりだ。だが、それぞれと比べたときの差は、商品ラインナップの違いではなく、設計思想とレイヤーの違いに現れる。

Ondoはトークン化米国債(USDY/OUSG)を軸に作り込まれた単一商品志向で、DefiLlama上のOndo Yield Assetsは$27.3億の規模を持つ。Centrifugeは国債を扱うものの、それはAnemoyというパートナー経由の一カテゴリにすぎず、信用・不動産・請求書・ロイヤリティ・S&P500指数まで7資産クラスを超える汎用レールである。両者は競合と見なされがちだが、原理的にはOndoがCentrifugeのレール上で発行することもありうる以上、補完関係に近い。

MANTRAやPlumeとの差はレイヤーの選択そのものだ。両者がRWA専用のL1を自前で構築するのに対し、Centrifugeは独自チェーンを持たない。この差が、前述したチェーン経済の取り込みとコールドスタート回避というトレードオフに直結する。GitHubの記述では、CentrifugeがApollo、Janus Henderson、S&P Dow Jones Indicesといった機関のオンチェーン戦略を駆動し、Sky、Aave、Morphoを通じてDeFiに深く統合され、$20億超のRWAをトークン化したとされる。Ondoが「retail向けトークン化国債のブランド」を握り、Plumeが開発者向けの働きかけに積極的で、MANTRAが地域の資本パートナーシップに強いとすれば、Centrifugeの相対的な強みは機関パートナー名簿の厚みと、2つの暗号資産サイクルを生き延びた稼働実績にある。RWA市場を勝者総取りと捉えるより、複数の異なる賭けが並立する市場として見るほうが実態に近い。

CFGトークンの価値捕捉という構造的な論点

ここまで protocol の強さを見てきたが、それがそのままCFGトークンの強さを意味するわけではない。CFGがやっていることは3つに整理できる。Centrifuge Chainをステーキングとバリデータ経済で保護すること、プロトコル変更やトレジャリー運用に対するガバナンス投票、そしてプロトコル手数料とオラクルサービスの会計単位としての機能だ。

ここに構造的な弱点がある。CFGはプールの利回りを直接取り込まない。Anemoyの国債プールでDROPを買えば、利回りはCFGではなくUSDC建てで支払われる。つまりTVLがいくら伸びても、その利回りが自動的にCFGへ還元される設計にはなっていない。これが、$十億規模で語られるTVLと、$1.1〜1.3億規模で推移するトークン時価総額の桁違いの乖離を生む根本原因だ。CMCランクでは#157前後、循環供給は資料によって3.8億から5.77億CFGまで数字が割れており、V3移行で旧CFG/WCFGはEthereumネイティブのERC-20に統合され、エコシステムインセンティブのリニアベスティングは2029年4月まで続く。

この乖離をめぐる論点が、2026年のCFGをめぐる投資家心理の中心にある。Treasury Advisory Group(TAG)がステーキング報酬モデルとfee-sharing機構を検討しており、4月29日のQuarterly Update投資家コールがその焦点となった。fee-sharingやバイバックが実装されれば、プロトコル収益がCFGに乗る経路ができ、再評価の論拠になりうる。逆に実装が遅れれば、「機能は揃っているが価値捕捉の弱いトークン」という状態が続く。一部のトレーダーがONDOとの比較で割安を強気材料に挙げているのも、この価値捕捉メカニズムが今後変わるという賭けに基づいている。断定はできないが、CFGの再評価が成立するかどうかは、プロダクトの普及そのものよりも、このトークノミクスの改修が現実に動くかにかかっている。

投資家が確認すべき論点と数値の取り扱い

最後に、Centrifugeを評価する際に避けて通れない実務的な注意点を整理しておく。まず信用リスクはプール単位に存在する。イシュアーの引受が甘ければ、デフォルトや請求書の未払いでまずジュニアが毀損し、損失が深刻ならシニアも傷つく。これは暗号資産特有のリスクではなく、オンチェーンのラッパーをかぶせたところで消えない構造的な信用リスクだ。BlockTowerの旧プールがベア局面でアンダーパフォームした経緯もある。JAAAはAAA格でも、ストレス時の信用環境では国債と異なる挙動を示す。2008年にAAA格のストラクチャード商品でも損失が出た事実は記憶に値する(ただしポストクライシスのCLO構造は当時のCDOとは異なる)。

流動性リスクも構造的だ。トランシェトークンやVaultは即時償還できず、ERC-7540の非同期Vaultではリクエストとクレームのウィンドウを前提に資金計画を立てる必要がある。USDeのように信用資産を準備金に組み込んだシンセティックドルが、急落局面でこの非同期決済をどう捌くかは、まだ大規模なストレステストを経ていない論点として残る。規制面では、トークン化された証券は依然として証券であり、SECのトークン化RWAに対するスタンスは未確定で、USDe連動のETP/ETFは合成ドルの分類問題で規制当局の精査を受ける可能性が指摘されている。

数値の扱いには特に注意がいる。TVLは情報源によって$500M超から$1.9Bまで幅があり、これは「累積トークン化額」と「ある時点のスナップショットTVL」、そしてどのVaultをカウントするかという定義の違いに起因する。CFGの循環供給や総供給、現CEOの表記についても資料間で食い違いがあるため、投資判断に使う数値は、公式ドキュメント、DefiLlama、CoinGeckoといった一次ソースで都度確認することを勧める。Centrifugeが描く「オンチェーン資本市場」の構造を理解する価値と、個別の数字を鵜呑みにしないことは、両立させておきたい。


本稿は情報提供を目的とした分析であり、投資助言ではありません。暗号資産への投資は元本割れを含む大きなリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。

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この記事を書いた人

海外のクリプト市場と制度設計の変化を観測し、価格ではなく信用構造と国家パワーの変数から長期トレンドを分析している。短期ニュースや投機的視点には依存せず、通貨構造の変化を軸に情報を整理している。空の崖から長期構造を観測する視点でスカイクリフドゥエラーを運営。

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